[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します

今週のピックアップは本日5日公開の『モールス』。本作は、スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』のハリウッド版リメイクです。監督は『クローバー・フィールド/HAKAISHA』のマット・リーヴス。製作当時はスウェーデン版が傑作ゆえ「大丈夫か…」と懸念されていた本作ですが、これが全米レビュー大絶賛の作品に仕上がっているのです。

小説の映画化は、原作に忠実に映画化する場合と映像化不可能な描写をうまく脚色する場合とありますが、この映画は原作→スウェーデン版→全米リメイクと少しず~つ脚色し、映像化されています。

映像化不可能では……と思う一例として、ヴァンパイアのエリと生活を共にする中年男。彼は恐ろしいほど歪んだ性愛の持ち主と原作では書かれています。その彼を『ぼくのエリ』では父親のような男として描き、さらに『モールス』では彼の過去と主人公の未来を重ね合わせるようにわかりやすく描いています。

そして『ぼくのエリ』公開時「なんだアレは!」と問題になったエリの下半身のボカシもリメイクではサラ~リと……(ネタバレになるのではっきり書けませんが)。

このリメイク版をマット・リーヴスが監督すると聞いた原作者のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストは大喜びしたそうです。「リンドクヴィストは『クローバー・フィールド/HAKAISHA』を見てくれていて、あの映画が古典的な物語を新しい視点で捉えており、それは彼が『ぼくのエリ』でやりたかったことだ!って言ってくれたんだ」とリーヴス監督。

ちなみに米国版を作るにあたって主人公の年齢を上げるというアイデアもあったそうだが結局これは却下されたそう。リーヴス曰く「これは無慈悲にいじめられる少年の辛さを描く物語でもある。そこに12歳特有の無垢さや発見があるんだ。年齢を上げてしまったら、この物語を台無しにしてしまっただろうね」と。確かに!

試写では「スウェーデン版のオリジナルの方がいい!」という人がいる一方「米国リメイクはオリジナルを超えた!」という人もいて、意見は真っ二つ! 見比べるのも楽しい本作ですが、ヴァンパイア映画といえど、ただのスリラーじゃない。オリジナルもリメイクも、ヴァンパイアと少年の想いを大切に描くということは一致しており、それを見事に表現した傑作であることにかわりありません。

(映画ライター=斎藤香


『モールス』
8月5日公開
監督&脚本:マット・リーヴス
出演:クロエ・グレース・モレッツ、コディ・スミット=マクフィ、リチャード・ジェンキンス、イライアス・コディーズほか
(C) 2010 Fish Head Productions, LLC All Rights Reserved.