[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップする作品は、明日公開の映画でニコール・キッドマン主演作『ラビット・ホール』。ニコールがアカデミー主演女優賞を受賞した『めぐりあう時間たち』以来、久々にアカデミー賞候補になった作品がいよいよ登場です。

閑静な住宅街に住む夫婦のベッカ(ニコール・キッドマン)とハウイー(アーロン・エッカート)。表向きは問題のない夫婦に見えるが、実はひとり息子を事故で失っており、ベッカもハウイーも悲しみから立ち直れず、ひたすら思い出にひたり、耐えるばかりだった。

そんなときベッカは息子を轢き殺した犯人の青年ジェイソン(マイルズ・テラー)と出会い、なんと彼と交流を持つようになる……。

ブロードウェイで上演された舞台劇の映画化で、舞台でベッカを演じたのはシンシア・ニクソン(『SEX AND THE CITY』のミランダ役でおなじみ)ですが、映画化にあたりキャストが変わるというのはよくある話です。ましてや映画版『ラビット・ホール』は、ニコール・キッドマンがプロデューサー。彼女の映画製作会社ブロッサム・フィルムのデビュー作でもあるのです。

トロント映画祭で、本作をお披露目したときは、女優として参加したものとは違い「緊張するわ。自分をさらけ出すような気持ち」なんてことを言っていたニコール。
脚本を舞台脚本も手がけたデヴィッド・リンゼイ=アベアーに依頼し、監督には『ヘドヴィク・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェルを抜擢するなど、そのプロデューサー手腕はなかなかのもの。最初から「世界中で大ヒットさせてガッポリ稼ぐわよ」という野心はなく「わかってくれる人が見てくれればいいの」的なしみじみ良質な作品を作ろうとしたようです。

ニコールは、本作のためにウディ・アレン監督作への出演が決まっていたにもかかわらず、スケジュールがかぶったことから降板したという噂も。それほどこの映画に懸けていたので、全米での絶賛レビューやアカデミー賞をはじめ各映画賞の主演女優賞にノミネートされたことはうれしかったでしょう。最近の出演作はイマイチ続きで「ギャラが高いわりにコストの悪い女優」と言われていた彼女ですが、この映画での名演で改めて「やっぱこの人、巧いんだな」とその演技力を再認識させることにもなったわけです。

この映画が好評だったせいか、製作の仕事に力が入っているニコールですが、次のプロデュース作品となった『Monte Carlo』は、ディズニーのアイドルスター、セレーナ・ゴメスを主演に迎え今年の7月1日のにリリースされたものの評価はムムム……。大ヒットを期待して派手なロマコメに手を出しちゃったせいでしょうか? でもこの先も2作品のプロデュース作が準備中。まずは傑作の誉れ高い『ラビット・ホール』で、ニコールの名演にしんみり感動してください。

(映画ライター=斎藤香

『ラビット・ホール』
11月5日公開
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:ニコール・キッドマン、アーロン・エッカート、ダイアン・ウィースト、タミー・ブランチャード、マイルズ・テラー、ジャンカルロ・エスポジート、ジョン・テニー、パトリシア・カレンバー、ジュリー・ローレン、サンドラ・オー