お絵描きっ子のみんなぁ、集合ーッ! そしてイラストや漫画が大好きな人も集まってくださーい! 今回から始まった新コーナー『禁断マンガ道場』の時間がやってまいりました。悩める漫画家・イラストレーターたちからの相談を募り、なぞの手抜き漫画家・テリーヌ富士子先生が一刀両断、解決に導くという夢(悪夢)の企画です。

記念すべき一発目の相談者は、約50年のブランクを経て奇跡的に復活した初老の漫画家・満利林(マリリン)さん59歳です。彼女の悩みは、ズバリ! 「セリフや文字が読みにくいと言われます」とのこと。ためしに原稿を見てみると……


なるほど、確かに読みにくい。1つのフキダシの中にグチャグチャッと、ものスゴい数の文字量が詰め込まれています。さらに改行などにも気を使わず、読みにくいこと山のごとし! テリーヌ先生、こういう場合はどうすればいいのでしょうか?

「早口よね。早口。まるで、1秒以内に『生麦生米生卵!』と言い切る競技なみに早口感(はやくちかん)があるわよね。でもこのパターンって、マンガ初心者なら必ずやっちゃうことなのね。とにかく言いたいことが先行しちゃって、読者のことなんてガン無視パターン。もっともっと、相手のことを考えようよ」

――なるほど、深いですね。もしテリーヌ先生だったら、どうしますか?

「ていうかね、私だったらこのセリフが激長い1コマのセリフだけで1ページ以上は稼ぐわね。ゆっくりゆっくり、じわじわと。私はこの手法を『ポリネシアン式』って名付けているけど、特に深い意味は無いから気にしないで。そんじゃ、ちょっとやってみましょうか。ちょちょいの、ちょいっと……」


満利林さんの原稿1ページの中から、使えそうなイラストを部分ごとに切り取って保存。アッという間に13個の素材をストックした手際の良さは、漫画界の『手抜きの匠(てぬきのたくみ)』といっても過言ではない犯罪レベルです。そして素材を配置、コマ割り、配置、コマ割り――を繰り返すと……!

なんということでしょう!

たった1コマのセリフだけで、4ページも稼いでしまったのです! なんという邪道! テリーヌ先生は得意げな表情でこう言います。

「読者が休憩するための『間(ま)』って、けっこう重要。描いている漫画家も、そこで一息休んだらいい。そこで一瞬、考えさせるってのもアリだわよね。読者に『この間って、なんか意味があるんじゃないか?』って思わせたら、その作品には深みが加わる。私が間を持たせる場合は、特に何の意味もないんだけどね」

たしかに文字ばかりの漫画は、読み続けると疲れます。しかしながら、あえて文字だらけのコマを作り、深層心理的に、目の錯覚的に、マジック的に……「まったく違う意味」を持たせるテクニックもあるとのこと。一体全体、どうすればそんなことが可能になるのでしょうか?

「ネットの世界には『タテ読み』って文化があるわよね。横組で流れる数行の文章の、頭文字だけを縦に読んでみると……違う意味になるというヤツ。あれを縦組みマンガのセリフにも組み込んでみると、登場人物が本当に思っている心理を表現できる……と私は思っているのよね。ちょっとめんどくさいけども」


――なるほど、タテ読み文化ですか。ま、それはどうでもいいとして、今回の結論的アドバイスをお願いします。

「まずは、間をもたせつつ、文字を分散させろってこと。もうひとつは、余裕もってフキダシを作ること。フキダシが大きければ、それだけスペースが稼げる……つまり、絵を描くスペースも小さくなるってことね。絵に自信がなかったら、フキダシの大きさだけで絵を隠しちゃうのも、ひとつの手よ」

その後、話のネタが切れたっぽい風のテリーヌ先生は、「えっと、満利林さんのこの作品って何ページあるんだっけ? 16ページ? ほうほう」と言いつつ、黙々と計算し始めました。そして……

「1コマだけで4ページ。んでもって、このページは9コマあるわよね。この文字量、このテイストのページが16ページあるんでしょ? ってことは、単純計算してみると、満利林さんのこのマンガ作品は、4×9×16=576ページになるわよね。少なく見積もっても、300ページはかたい。圧倒的ボリュームの超大作じゃない。1話だけで2~3巻出すことも不可能ではないわ。あたしがアドバイスできるのはこれくらい。みんな、絶対にマネしちゃだめよ」

――ありがとうございました! 絶対に、絶対にマネしません!

(文=長州ちなみ / 道場主=テリーヌ富士子 / 相談者=:満利林(マリリン)

▼今回の相談の元ネタ、満利林(マリリン)さんの作品『アクションガールズ』はこちらからどうぞ

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