[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

本年度のアカデミー賞で、最多11部門にノミネートされながらも、5部門受賞。それも主要の作品賞、監督賞などはライバルと言われた『アーティスト』にさらわれてしまったマーティン・スコセッシ監督初の3D映画『ヒューゴの不思議な発明』。

でも「なんだ『アーティスト』の方がいいのか」と思っちゃいけません。「3D映画なんて、いま珍しくも何でもないじゃん」なんてことも思っちゃいけません。この映画は「3D映画とはこうやって作るんだ、こうやって観客を魅了するんだよ」と、スコセッシが語っているような映画。巨匠が映画ファンに向けて贈った、飛び出す宝石箱のような映画なのです!

舞台は1930年代のパリ。駅に住む主人公の少年は、父が残した機械人形の謎を解きたくて仕方がなかった。機械人形にはハートの鍵穴があり、そこに合う鍵があれば……。そんなとき、彼はその鍵を持つ少女に出会う。機械人形に隠された秘密とは?

正直、記者もこの映画を見るまで、3D映画って必要? と思っていました。「映画の演出を飛び出すことでごまかしてない?」なんてことも。でも本作を見てやっと「3D映画って楽しい!」と心底感じることができるようになったのです。

少年が住む駅が映されるオープニングから、カメラが舐めるように地と宙を飛びまわり、駅に集まる人と人の間をすり抜けていく。まるで自分もスクリーンの中に連れて行かれるような不思議な感覚とワクワク感は、これまでの3Dでは体験できなかったことです。

少年と父や少女との関係性や、機械人形に秘められた父の思い、その思いにつながる映画の歴史が紐解かれていくストーリーも、原作ありきとはいえ、映画愛に満ち満ちています。謎が解かれていくたびに驚きというより、感動が押し寄せてくるなんて……。見る前は想像もできなかった世界が、目の前で繰り広げられてゆくのです。

ちなみに監督が3Dをとるにあたって参考にしたものは、1953年製作の3Dホラー映画『肉の蝋人形』で「これは最高の3D映画だ」と語っています。そしてあのヒッチコック監督作『ダイヤルMを廻せ!』について「ヒッチコックはとても頭のいいやり方で3Dを使った。エフェクトとしてではなく、ストーリーとからませて物語の要素として空間を活用したんだ」と。3Dの歴史が意外や古いこと、『ダイヤルMを廻せ!』に3Dが使われていたことなど、さすが巨匠はあらゆることに精通しています。ホラーとヒッチコックが、この映画のヒントになっていたとは!

ちなみにアカデミー賞を受賞した『アーティスト』は、サイレント映画で古き良きハリウッド賛歌の映画。最新技術を駆使した本作とは正反対で、この懐かし感が、年配者の多いアカデミー会員をうならせたとの噂。映画界が物語性よりも映像の進化に走りすぎたことへの警告という声もあります。

でも、新しい技術を駆使して、物語性、演出、演技、美しい映像、すべてをパーフェクトに創り上げ、映画の歴史を未来へつなげた『ヒューゴの不思議な発明』は、受賞を逃してもマスターピース! マフィアもバイオレンスもないけれど、スコセッシの映画愛がつまった作品であることに間違いありません。

(映画ライター=斎藤香

『ヒューゴの不思議な発明』
3/1(木・映画の日) TOHOシネマズ 有楽座他、全国ロードショー!(3D/2D同時公開)
監督:マーティン・スコセッシ
出演:エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、ジュード・ロウ、ベン・キングズレー、サシャ・バロン・コーエン、クリストファー・リーほか。
(C)Paramount Pictures 2011