首都圏人口世界一、それが日本の東京です。その数、ざっと約1318万人。日本人の10人に一人は東京にいる計算。あまりにも……あまりにも多すぎる! だけどそれが東京なのです。

さて、そんな東京の移動手段といえば、毛細血管のように張り巡らされた鉄道網が便利ですよね。安いし早い。乗りこなせば最強です。ところがどっこい、路線によっては、朝の通学・通勤ラッシュは地獄と化し、夜は夜で帰宅ラッシュ。

できることなら乗りたくない。満員電車には乗りたくない。なぜならそこには、いろんなタイプの妖怪がひそんでいるから……。私の頭では理解しがたい行動をとる、満員電車にしか生息しない妖怪がひそんでいるからです! 以下にご紹介します。

その1:妖怪ディフェンダー
降車時に出現する妖怪です。ドアの開くホーム側に立っているにもかかわらず、後ろには降りたい人がたくさんいるにもかかわらず、一度ホームに降りることもせず、断固として車内に残ろうとする習性があります。動かざること山の如し。抜こうと思っても背中でブロック。まさに鉄壁のディフェンダー、それが妖怪ディフェンダーです。たのむから一度ホームに降りて下さい。そうすればみんなスムーズに降車できます。

その2:妖怪リュックサック
大きなリュックサックを背中に背負ったまま満員電車に乗車する妖怪です。非常に邪魔です。あなたのうしろ、通れません。リュックは体の前面で持って下さい。

その3:妖怪プッシュ
乗車時や降車時に出現する、とてもせっかちな性格の妖怪です。しっかりと前に移動しているにもかかわらず、後ろからグイグイと押してきます。そんなに押されても困ります。前には人がいるんです。つっかえているんです。そんなにグイグイ押してきたら、私も妖怪プッシュになってしまうではありませんか。

その4:妖怪ちょい広めに間隔あけ座り
一般的にロングシートは7人座席。シルバーシートの位置にある座席は3人です。にもかかわらず、「妖怪ちょい広めに間隔あけ座り」が出現するだけで、秩序は一気に崩壊します。6人しか座れなくなってしまうのです。なんでそんなに間隔あけるのか。それがお前のやり方か。満員なんだぞ。分かってんのか? だいたい、最近のシートはひとりひとりに「くぼみ」が付いているではないか。なのにどうして……。

その5:妖怪角位置死守
電車のドア脇にあるバー付近の角位置を、どんなことがあろうとも、どんな状況になろうとも、絶対に死守する妖怪です。余裕ある乗車率の電車では無害ですが、下敷き一枚入らないほどの最強レベル満員電車では、絶対的安全エリアの「角位置」から動かざるを得ない状況になったりもします。降車時なんて特にそう。でも、絶対に動かない。もはやバーと一体化。車両と完全に一体化。少しは動いて、お願いだから。まあでも基本は無害です。オセロの四隅と同じです。

その6:妖怪もう入れないよフェイク
実はまだ乗車率90%程度なのに、ドア側ギリギリ、もしくはドアから片足をはみ出させて「もうこのドアからは入れないよ。満員状態だよ!」とアピールする演技派の妖怪です。別名・地獄の門番。もしくは「バウンサー(用心棒)」。この妖怪の演技に騙された新参者は、本気で混んでいる車両(乗車率200%)に乗らざるを得ない状況になったりもします。

しかしその一方で、すでに車両にいる乗客にとっては守護神にもなります。お国に攻めこむ新参者を「妖怪もう入れないよフェイク」が見事にブロックすれば、余裕ある乗車率が維持できるからです。ただし、残念ながらこのフェイクは出発直前で突破されることが多いです。混んでいようが乗り込まなければならない勇者たちが、背中からグイグイと押し入ってくるからです。

その7:妖怪シャカシャカ
もはや説明の必要がないほどのメジャー妖怪がシャカシャカです。イヤフォンからの音漏れがすごい。シャカシャカ聞こえる。ひどい時には歌声まで聞こえる。しかもセンスを疑ってしまうような曲だったりもし、なんだか無性にイライラします。音量は適量でお願いします。そんなに大きな音で聞いてたら、耳にも悪いですよ。

その8:妖怪チョーシこき大声会話
友だちと乗車しているのはわかる。会話したいのもわかる。だけど声が大きいの。みんなに聞こえるような大きさで会話しないでいただきたい。しかもその会話が、青臭くてチョーシこいてる風だったりすると、聞いているこっちまで恥ずかしくなるからマジでカンベンしてほしいの。若い妖怪が多いです。

その9:妖怪床しゃがみ
乗車しようとしたときに、うんこ座り状態で床に座っている人を見ると「ギョッ」とします。そこ、シートじゃないんだよ。体の調子が悪いんだったらしょうがない。でもアンタは違うよね? 単に世間をナメてるだけでしょ? 疲れているかもしれないけど、みんな疲れているんだよ。なんで床に座ってんの。人から「ああ、こいつはアホだな」と思われているって気付かないの? たのむから立ってちょうだい。みんなに迷惑かけないで。

その10:妖怪フタ
この妖怪は、ほとんど害はありません。ただただ、ドア側が好きなだけという妖怪です。発車直前までドア脇に待機して、閉まる直前にドア上部の縁を持ちながら背中から乗車してくるテクニシャンです。つまりは乗客のアンカーです。フタ的な役割をします。降車時には、たいてい一度はホームに降りてくれるし、常識のある妖怪です。

その11:妖怪すかしッ屁
許されざる妖怪、それが「妖怪すかしッ屁」です。満員電車であるにもかかわらず、音のないオナラをします。ものすごく臭いのに、誰がしたのか分からない。あの人では? いいや、あの人……? と、乗客は疑心暗鬼になってしまいます。最悪なのが、爆心地が自分のお尻付近というパターンです。つまりは背中合わせの押しくら饅頭状態で、後方にいる誰かの尻から放屁されたというパターンです。自分自身にもスカシ疑惑がかけられて、ふんだり蹴ったりの状態になります。オナラは生理現象ですが、満員電車ではガマンするようにしてください。

その12:妖怪泥酔
酔っ払うのは仕方のないこと。ですが、立てなくなるレベルで酔っ払っているのが「妖怪泥酔」です。人によっかかってくるのは序の口で、ひどい時には満員電車のなかでグチャ~っと床に崩れ落ちたりもします。もしかしたら、オブゥェェェロェロと吐いてしまうかもしれない……と、まわりの乗客は気が気ではありません。もしも偶然、目の前に妖怪泥酔がいたとしたら、運が悪いと思ってあきらめてください。

(文=長州ちなみ / イラスト=テリーヌ富士子
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