ほぼすべての仕事において守らなければならないのが納期、リミット、すなわち「シメキリ(〆切・締め切り)」です。しかし、星の数ほどある職業の中で、もっともシメキリという言葉が似合うのが漫画家でありましょう。

プロの漫画家が描く日記マンガなどでは、必ずといってよいほど自虐的な「シメキリネタ」が入っていたりします。あの手塚治虫先生ですら、自ら「慢性シメキリ病」と自虐的に描いたこともありました。ということで今回は、シメキリ前の漫画家によくある「あるある」を99個ほどお伝えしたいと思います。

【シメキリ前の漫画家あるある99 】

その01:部屋の掃除を始める。
その02:「ちょっと1時間半くらい寝てから早起きして一気にやろう!」と決意して、8時間後に起きる。
その03:「時間よ止まれ!」と叫ぶ。
その04:シメキリは明日だが、まだ24時間もある。
その05:手塚治虫先生が降臨する。
その06:「そのシメキリ日、ちょっと盛ってるんでしょ?」と思っている。
その07:同じ雑誌に描いてる漫画家とデッドラインの情報共有。
その08:シメキリ前だが、PCのファイル整理をはじめる。
その09:シメキリは8時間後だが、普通に働いたら一日8時間労働、ぜんぜんフツーだから大丈夫。
その10:普段なら絶対に読まないようなマンガを読む。
その11:自分で屁したのも気づかないくらいの集中力。
その12:サッカー日本代表の試合があると、編集者からの電話もなくなる。
その13:シメキリは6時間後だが、4時間で終わらせたことあるから大丈夫。
その14:Amazonパトロールで2時間ほど消費する。
その15:嵐のようなコピペ。
その16:「ついにこの時が来たか」とつぶやいてから執筆開始。
その17:シメキリ日の23:59までならOKだと思っている。
その18:同じ雑誌に描いている漫画家の動きをTwitterやFacebookで確認して安心する。
その19:明け方4時とかに編集さんにメール返信したら即レスでビビる。
その20:シメキリは2時間後だが、コピペ技使いまくればごまかせるから大丈夫。
その21:サボっているのがTwitterやFacebookで編集さんにモロバレ。
その22:編集さんから進行状況確認の電話かかってきて「80%くらい終わってます」と答えるが、実はペン入れ一切していない。だが、ペン入れには20%の力しか使わないのでウソは言っていない。
その23:部屋の模様替えを始める。
その24:エスタロンモカを服用したら仕事が終わると思っている。
その25:ありえないスピードで仕事が終わり、「この時間で、毎日このページ数こなしたら……」とギャラの皮算用する。
その26:レッドブルがぶ飲みしたら仕事が終わると思っている。
その27:シメキリは3時間後だが、180分もあるから全然まだまだ大丈夫。
その28:1ページ中、1コマしかリキ入れない。
その29:本気で「手塚先生、助けて下さい! 手塚先生、降りてきてください!」と祈る。
その30:あえて酒を入れる。そしてグダグダになる。
その31:『まんが道』に出てきたシーンの真似をして、ペン先で腕をブッ刺して流血する。
その32:仕事が遅くなったことを家族(身内)のせいにする。
その33:「静寂」が多いマンガになっている。
その34:ネットで6時間くらい消費して、さすがにこれはヤバい!とネット回線を切る。
その35:「まだ電話こないから大丈夫」と思っている。
その36:「ルールー♪ ラララー♪」と謎の曲を歌い始めたりする。
その37:「過去に4時間で4ページ描いたことあるから大丈夫」と思っている。
その38:迷いがない。
その39:編集さんから進行状況確認の電話かかってきて「あと2時間くらいで終わる見込みです」と答えるが、実際に完成するのは4時間どころか6時間、いや、8時間後。
その40:シメキリは1時間後だが、60分しかないが、3600秒もあるから全然まだまだ余裕で大丈夫。
その41:「集中できる曲」を探して2時間経過。
その42:切羽詰まった情況のなか、あえてNHKの『世界ふれあい街歩き』など、心落ち着く番組を見て悟りの境地に入る。
その43:シメキリ前に限って他の予定などがジャンジャン入ってきたりして分単位で動くビジネスマンになる。
その44:デッサンの狂いも何もかも「味」で押し切る決意をする。
その45:シメキリは今日とメールに書いてあるが、まだ何も編集さんから連絡ないからあと30時間くらいは大丈夫。
その46:時間を極限まで曖昧(あいまい)に答える。
その47:数々の漫画家の大先生が書き残してきた「シメキリ前の修羅場マンガ」が走馬灯のように頭をグルグルしてる。
その48:やたら「間」のあるストーリー展開にする。
その49:シメキリ前だが、ウインドウズの更新やアップデートを片っ端から実行して、仕事ができないのはPCのせいだと思うようにする。
その50:なんで漫画家になったんだと後悔する。
その51:水まわりが気になり、メラミンスポンジなどを駆使してシンクをピカピカに掃除する。
その52:ペンを持つ手が燃える。
その53:ギャラは欲しい。
その54:原稿依頼の段階で、シメキリよりも前にマジのデッドラインを教えてくる編集さんは、マジのマジでデッドラインの可能性があるので油断できない。
その55:焦りまくってオシッコ漏らしたりする。
その56:編集さんから進行状況確認の電話かかってきて「今やってます」と答えるが、実は他雑誌の仕事してる。
その57:シメキリは昨日だったとメールに書いてあるのをついさっき確認したが、何も編集さんから連絡ないから多分まだ大丈夫。
その58:いきなり瞑想を始めたりする。
その59:こんな情況で修羅場りながら描いた突貫工事マンガの回が、余裕をもって丁寧にジックリ描いた回より評判が良かったりすると、切なくなると同時に、マンガの奥深さを思い知る。
その60:デッドラインを正直に言う編集さんとは、腹をわって話せる。
その61:シメキリ前に限って夫(嫁)と大げんかして、延々と説教を聞くハメになる。
その62:死のうかと思う。
その63:「まるで小学生時代の8月31日状態じゃないか!」と自虐的に叫ぶが、今思い返せば小学生時代の9月1日も、宿題何も提出しないでブッチギったことがある。
その64:シメキリはぶっちぎるが、絶対に落とさない。それがポリシー。
その65:編集さんからのダイレクト電話でショック死しそうになる。
その66:シメキリは3日前で、ついに編集さんからメールで催促が来たが、メールだからまだセーフ。
その67:地震が来ても動じない。
その68:「集中しろ、集中しろ、集中しろ!」と自己暗示をかけた3秒後にiPhoneいじくってる。
その69:断固たる自信をもって提出する。
その70:同じ雑誌に描いている漫画家が余裕の動きしていて油断してたら、とっくにその漫画家は原稿入れてて裏切り者と見なす。
その71:シメキリ前に限ってPCが調子悪くなったりしてマジで焦る。
その72:どーしよーもない状態になってからが本番。
その73:キャリアを重ねるごとに崖っぷち度が増している。
その74:ペン入れからトーン入れまで、1ページ30分でこなす「神モード」に入ったら勝利確信。
その75:「いま考えてます!」と、やや逆ギレ気味に返事する。
その76:シメキリは7日前で、ついに編集さんから「マジでヤバい」と電話が来たが、あと2時間くらいは大丈夫。
その77:何も考えずに『シメキリ前の漫画家あるある99』とタイトル付けて書き始めて、77個目で長考に入る。
その78:オチを決めないまま猛烈なスピードで描き始めて、オチ直前で長考に入る。
その79:あまりにも集中しているから24時間くらい何も食わなくても余裕。
その80:2日前や3日前に行動しなかった自分を責める。
その81:振り返らない。
その82:キャリアを重ねるごとに、常に平常心でいられる。
その83:すべては夢だったと思うことにする。
その84:もしも自分が編集者だったら、絶対に自分のような作家は使いたくないと思ったりもする
その85:シメキリは2週間前で、もう雑誌も出ているが、自分の連載枠が他の作家さんの「新連載!」になっていたので、まだ大丈夫。
その86:落ちるギリギリまで何もせずに、とことん自分を追い込む。
その87:「ガマンして一気にペン入れすれば朝5時頃には終わるんだぞ。一気にやっちまえ!」と暗示をかけるが、20秒後にはネット見てる。
その88:あえて本気で寝る。
その89:効果音でごまかす。
その90:シメキリ日の翌日00:00を回ってしまうと、ならば10:00まで引っ張れると思っている。
その91:ところがどっこい、明らかに電車のない時間に編集部の電話番号から着信あって、「こいつはマジだな……」と青ざめる。
その92:あえてゆっくり風呂に入る。
その93:「時間よ戻れ!」とマジで絶叫する。
その94:シメキリとっくに過ぎているのに、デッドラインの1時間前に提出してドヤ顔。
その95:ラフも何も提出しないで、いきなり本番原稿を送る。
その96:シメキリは11年前で、もう雑誌も廃刊になっており、担当の編集さんは編集者を辞めて田舎に帰ったと聞くが、きっとまだ大丈夫。
その97:でも最終的には間に合う。
その98:そして次号も崖っぷち。
その99:生きてることを実感する。

(文=長州ちなみ / 情報提供・イラスト=テリーヌ富士子
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