[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは5月26日公開、ウディ・アレン監督の最新作『ミッドナイト・イン・パリ』、アカデミー賞で最優秀賞脚本賞を受賞した作品です。

予想通り、授賞式には出席しなかったアレン監督。何度ノミネートされても絶対に授賞式には出ない。それでも受賞する。そこが彼の凄さです。一度だけ9.11同時多発テロ後の授賞式で、ニューヨークのために登場したときはスタンディングオベーションでした。それだけ映画人に愛されている人なのですね。

そんなハリウッドがひれ伏すウディ・アレン監督ですが、最近はニューヨークが舞台の映画だけでなく、ヨーロッパを舞台にした映画が目立っているようです。『マッチポイント』はロンドンだったし、『それでも恋するバルセロナ』はタイトル通りバルセロナ、そして今回はパリが舞台です。

ハリウッドの人気脚本家ギルが、婚約者とその両親とともにパリへやって来ます。彼にとっては芸術の都・憧れのパリ。ギルは脚本家として成功し、巨額の富を得ても、ハリウッドでの仕事に飽き飽きしていました。

そんな彼が、真夜中のパリをブラブラしているとき、午前0時とともに黄色いプジョーがやって来ます。その車に乗ったギルはあるパーティへ。そこにはなんとスコット・フィッツジェラルド、アーネスト・ヘミングウェイ、コール・ポーターが! 彼は1920年代のパリにやってきたのです……。

自分の進むべき道に迷っていたギルが、憧れのパリで、憧れの作家や芸術家たちと時間を共にすることで俄然、創作意欲に目覚めていく姿が微笑ましいです。「憧れの人が生きた時代に自分がいる」その興奮状態には大共感! また、あいかわらずセレブへの嫌み満載のセリフ、ハリウッドの大作主義をチクチク刺すセリフにはニヤニヤさせられます。真夜中のパリに登場する芸術家たちとギルが時代を超えて交流を深めていくプロセスも楽しく、ワクワクするシーンの連続です。

でも何よりこの映画で大きくクローズアップされているのはパリの街でしょう。映画のオープニングから次々と映し出される美しいパリの街を見ていると、監督のパリへの愛を深く感じ、いますぐパリへ旅立ちたくなる!

アレン監督がパリに魅せられたのは1965年の『何かいいことないか子猫チャン』の撮影のとき。「あのときパリに残らなかったことを後悔しているよ。今思えば残ることができた。最低限の物が揃っているパリのアパートで自分の時間を過ごせたんだ」と語っています。

でも、アレン監督がずっとパリにいたら、いまのウディ・アレンはいなかったでしょうから「もっといたかったな……」と思う気持ちがいいのかも。そのへんの心情は主人公のギルとかぶります。やっぱりギルはアレン自身なのですね。

アレン監督のファンはもちろん、パリ好き、アート好きも大満足の『ミッドナイト・イン・パリ』。この映画でパリの空気をたっぷり感じてください。

(映画ライター=斎藤 香


『ミッドナイト・イン・パリ』
2012年5月26日公開
監督: ウディ・アレン
出演: キャシー・ベイツ、エイドリアン・ブロディ、カーラ・ブルーニ、 マリオン・コティヤール、レイチェル・マクアダムス、マイケル・シーン、オーウェン・ウィルソン、ニーナ・アリアンダ、カート・フラー、トム・ヒドルストン、ミミ・ケネディ、 アリソン・ピル、レア・セドゥー、コリー・ストール
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