[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回のピックアップは、7月27日先行公開、28日全国公開の超話題作『ダークナイト ライジング』です。全米公開は爆発的なヒット!レビューも軒並み高評価です。

しかし、作品の素晴らしさをよそに、本作の公開時から悲劇的なニュースが報道されているのはご存じの通りです。全米の人気映画批評サイト「Rotten Tomatoes」は、本作に対する否定的なレビューを書いた批評家に対する批判が集中して炎上! コメント欄を閉鎖する事態になりました。

そしてコロラド州デンバー郊外では、本作を上映していた映画館内で銃乱射事件発生し多数の死傷者が出ました。スタッフ、キャスト、関係者はショックを受け、世界中のイベントが中止。もちろん来日イベントも中止。全米では映画の週末の興行成績の発表を控えると各社がコメントという事態になりました。

映画の高評価とは反対に悲しい事件ばかりがこの映画を取り巻いてしまい、関係者はこんな風に話題になっても嬉しくないでしょう。

しかし、この映画の力は悲劇に押しつぶされることはありません。クリストファー・ノーラン版『ダークナイト ライジング』は、三部作の最終章として、バットマンが苦しみ抜いて飛翔するプロセスをドラマチックかつスリリングに描いており、165分の上映時間まったく飽きないという素晴らしい映画に仕上がっております。

前作『ダークナイト』で強敵ジョーカーとの闘いの末、ヒーローから逃亡者になり、闇に消えたバットマンことブルース・ウェインに新たな敵が闘いを仕掛けて来ます。この悪役がクレイジーで残酷な前作のジョーカーとは違って、残酷だけど物凄く深い傷を背負っているため、実に湿気を帯びたウェットな闘いに。その重い空気を払拭するのが、女泥棒キャットウーマンです。彼女の軽やかなアクションとブルースとの軽妙なやりとりは、ヘビィな本作にチャーミングな甘さを加えることに成功しています。

何より本作が素晴らしいのは、新しい敵に打ちのめされてドン底に突き落とされたバットマンがどうやってはい上がって行くか、そのプロセスです。葛藤するヒーローらしく悶絶しながらも飛翔していく姿は、まさにrises!(原題は『THE DARK KNIGHT RISES』)。タイトルに偽りなしですよ。

ノーラン監督は「僕たちは自分たちにかかわるものの観点でストーリーに取り組んでいる。我々に恐怖を感じさせる物は何か。希望を与える物は何か。バットマンのような男が立ち上がるには何か必要なのか」と語っていますが、まさに映画はそこを描いています。

そして原案のデビッド・S・ゴイヤーは「前作から8年の期間を置いたのは、ゴッサムの人々の間で、ダークナイト伝説が薄れるのを待ったから」と語っています。これは映画の中の人々のことを語っていますが、映画ファンに対しての言葉でもあるのでは? と。

前作『ダークナイト』が衝撃的過ぎたから、3作目は時間を置きたかったと言っているようにも聞こえますよね。でも本作は『ダークナイト』に負けず、大きな物語を展開させ、バットマンのヒーローとしての人生をしっかり描き切っています。そして最後に今後を思わせる(!?)ちょっとした仕掛けが……。セリフを聞き逃さないで!

悲しい事件の犠牲になった方たちの冥福を祈りつつ、『ダークナイト ライジング』の素晴らしさ、ぜひ劇場の大きなスクリーンで堪能してください!

(映画ライター=斎藤 香


『ダークナイト ライジング』
7月27日先行公開、28日全国公開
監督: クリストファー・ノーラン
出演: クリスチャン・ベイル、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン、アン・ハサウェイ、トム・ハーディ、マリオン・コティヤール、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、モーガン・フリーマンほか
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