NYのイースト・ヴィレッジに、タイルや鏡によるモザイク装飾が施された、カラフルな街灯が目に付く場所があるのをご存知でしょうか? 映画にも登場するその一角は「モザイク小径」と呼ばれ、地域の人々はもちろん観光客にも親しまれるちょっとしたローカル名所です。

伝説のライブ・ホール、フィルモア・イーストや、ボクサーのラッキー・ルチアーノなど、地元の名所や人物を題材にした作品は決して洗練されてはいないけれど、独特のユーモアと暖かさで街を彩っています。

今回ご紹介するこのストリート・アートの作者は、ジム・パワー氏(Jim Power)。「モザイク・マン」として地元で親しまれるホームレス・アーティストです(しかも結構高齢!)。彼が歩んできた道とその不屈の精神が、いま多くの人に勇気を与え、静かな話題になっています。

ジムが最初の街灯を装飾したのは1985年。ヴェトナム戦争から帰還したあと、大工として野外で働いていたジムは、彼の愛してやまないイースト・ヴィレッジの治安がどんどん悪くなっていき、人々の心がすさんでいく姿を目にしていました。

そんな地域を取り巻く状況に心を痛めた彼は、「冷えてゆく人々の心の隙間を埋めたい」という願いから、大工の仕事をドロップアウトして、このモザイク装飾を始めたと言います。

それからというもの、通りで貰うカンパだけを頼りに黙々と街灯に向かい続け、80もの街灯からなる「モザイク小径」を制作したのです。たった独りで、お金のためではなく、ただ地域への愛情から、というから素晴らしいです。

ところが90年代後半、当時のジュリアーニ市長によって街の「美化政策」が押し進められ、多くのグラフィティやストリート・アートが有無を言わさず撤去されることに。ジムの作品も例外ではなく、無常にも50本の街灯からモザイクが剥がされてしまいます。しかし、そんなことでは挫けないのがこの男。近年、彼はその修復にまた取り組んでいるのです!

「いったん旅を始めたら、そいつを終わらせなくっちゃね。俺はそいつが得意だよ」

笑顔で道行く人々に話しかけ、犬をお供に独り作業に励む彼のポジティブな姿が、地元はもちろん各地の人々を勇気づけることに。今では地域の住民たちから、スタジオ・スペースの無償提供やホームページの運営などのサポートを受けています。

彼のデザインしたTシャツや、ハンドメイドのバックルなどを販売するウェブ・ショップもあって、これがなかなか味があって素敵! 是非チェックしてみてください。売上は全て「モザイク小径」修復費用にあてられるとのこと。頑張れ、おじいちゃん!

(文=黒澤くの)
参照元:etsy.com(http://goo.gl/I5P0c)、mosaicmanny.com

モザイクマンの歩みを取材した動画

Jim Power and the Mosaic Trail from Etsy on Vimeo.

ハンドメイドのバックル。価格は8,000円〜10,000円ほど。