[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは8月11日公開の『桐島、部活やめるってよ』。朝井リョウの同名小説の映画化です。この映画は試写が回り始めたときから、業界内がざわめきました。「どうやら抜群におもしろいらしい」そんな噂を記者も耳にし、これまで1本もハズレのない吉田大八監督作(『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』など)ですし、さっそく試写へ向かったのですが、人気は本物! 

30分前でも満席で入れず、2回目のチャレンジで見ることができました。そして、これが誰もが通り過ぎた十代のリアルを描いた青春映画の傑作だと確信したのです。

物語はバレー部のキャプテンの桐島が部活をやめるという噂から始まります。その理由はわからず、バレー部員、いつもつるんでいる友達、桐島の彼女とその取り巻き、また桐島が噂になることで、巻き込まれる映画部や吹奏楽部などの部員たちの高校生活の断片が描かれていきます。桐島が部活をやめたと話題になった金曜日から月曜日までが、生徒たち各自の視点で綴られていくのです。

「桐島なぜやめた」「桐島はどこだ?」そう口ぐちに言いつつも、平穏な学校生活に起こったちょっとした波風に生徒たちは軽く興奮状態です。この映画はひとりの生徒にスポットライトを絞ることなく、登場人物にまんべんなく語る場を与えます。そして普通に高校生活を送っている彼らの関係性、派閥や上下関係も自然と浮き上がらせるのです。リアルの秘密はそこです!

記者も思い出しましたよ。そうそう、こうやってグループ分けができちゃうんだよね。派手とか地味とかオタクとか体育会系になんとなく分かれて、地味な子は派手な子にコンプレックスを抱えたりして。すぐ彼氏や彼女ができちゃう子もいれば、ただ見つめるだけで精一杯の子もいて。でもみんな、何かを見つけたいのに見つからなくてイライラしているんだ……と。そんな不安やとまどいやトラブルによる小さな興奮でフワフワしている十代を見事に切り取って見せるのが本作。教室や体育館の空気感、放課後や休み時間に現れる人間関係を誰もが懐かしく思い出すはず。そして、彼らが桐島にこだわるのは、何かを決断して部活をやめた桐島に対する羨望もあったのでは?と思うのです。

それにしてもこのリアルなライブ感は、吉田監督によるワークショップ形式のオーディションが効果的だったようです。ここでキャストを絞り、さらに1カ月に渡るリハーサルをすることで、生徒役のキャストに一体感が生まれたのでしょう。そして監督は、ワークショップやリハで、いまの高校生の言葉をキャッチして脚本に活かしていったそうです。ちなみに原作者の朝井氏は映画をとても気に入ったそうで「親バカ発言になっちゃうんですけど、すっごく良かった。小説の枠組みはガッチリ残して、あとはガラっと映画にしてくれて大満足です!」と語っていたとか。

何より微笑ましかったのは、生徒たちがみんな平等であったこと。何しろいちばん情けない様子だった生徒がちゃんと逆襲のチャンスを得ますからね。涙する友情や、片思いの成就や、一件落着のカタルシスはないけど、「これぞ青春映画!」と誰もが納得する傑作です。
(映画ライター=斎藤 香)


『桐島、部活やめるってよ』
8月11日公開
監督: 吉田大八
原作: 朝井リョウ
『桐島、部活やめるってよ』(集英社刊)
出演: 神木隆之介、橋本愛、大後寿々花 、東出昌大、清水くるみ 山本美月 松岡茉優 、落合モトキ、浅香航大、前野朋哉、 高橋周平、鈴木伸之、榎本功 、藤井武美、岩井秀人、 奥村知史 、太賀
(C)2012「桐島」映画部 (C)朝井リョウ/集英社