トッド・エイキン下院議員

アメリカでは、大統領選挙をこの11月に控えて与党・民主党と野党・共和党の綱引きが日に日に激しさを増しつつあります。各党の議員たちが日々メディアに登場し、それぞれの主張を展開しながら相手方を攻撃する、見慣れた光景がそこにあります。

アメリカの選挙で必ず争点になる議論のひとつが、「妊娠中絶」。オバマ大統領の属する民主党とその支持者は「妊娠中絶は女性の権利であり認めるべき」とする“プロライト(プロチョイス)”の立場を、対抗する保守系の共和党と支持者はキリスト教の教義に基づき「妊娠中絶は殺人であり許されない」とする“プロライフ”の立場をとる人が多数という傾向があります。

そんな中、あるアメリカの議員さんが、女性からするとどう考えてもありえない主張を展開してくれました。

中絶反対派(プロライフ)の主張の最大の弱点のひとつが、「レイプ被害による望まない妊娠をどうするか」ということ。暴行の結果の妊娠さえ中絶できない場合、被害者は二重の苦しみを味わうことになるわけで……。

キリスト教が尊ぶ「命」を粗末にするべきではない、という中絶反対派(プロライフ)の人々は、この弱点に対し様々な角度から反論を試みています。そして飛び出したのが、トッド・エイキン下院議員(共和党)によるテレビでの発言です。その大意は次のとおり。

「医者から聞いたところによると、正真正銘のレイプ(legitimate rape)である場合、女性の体は妊娠プロセスをシャットダウンすることができる(だから妊娠しない=中絶など必要ない)」

この発言が大問題な部分は2つ。まず、女性の体が(頭でなく「体が」!)それがレイプかどうかを判断して妊娠を中断できるなんていう非科学的にもほどがある論理。そしてもうひとつ、「正真正銘のレイプ」なるもの。正真正銘じゃないレイプって、何ですか? ちなみにlegitimateという単語は「法的に正しい」「正当な」というかなり強い意味がある言葉。

この発言が問題にならないわけはなく、全米から非難が巻き起こりました。オバマ大統領はすかさず怒りの言葉を発表しています。「レイプはレイプだ(rape is rape)」(※この一言だけでなく、きちんと糾弾しています)

あまりの反響に現在、エイキン議員はこの発言について謝罪している……のですが、単に「失言だった」「被害者に深く同情している」といった程度。さらに「『正真正銘の(legitimate)』ではなく『強制的な(forcible)』のつもりだった」と改めて発言しており、「強制的じゃないレイプって何だよ」とさらに事態を悪化させている模様。

そして、本当の問題は単語の意味の是非ではなく、自分の主張に都合のいい機能を勝手に女性の体に備え付けようとしていることだと思うのですが……こちらについては、8月21日現在、何の訂正もありません。この方、本気でそう思っているのでしょうね。

ときに世界をリードするような天才を輩出するアメリカですが、疑わしいことを本気で主張する人が登場することも多々あります。光が強ければ闇もまた深い、ということなのでしょうか。

(文=纐纈タルコ)
参照元:SALON(http://goo.gl/dMZuG)ほか多数

▼この発言を含む実際の映像。共和党員は彼に黙っていてほしいことでしょう。