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【映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します】

今回ピックアップする映画は、フランス・スペイン合作映画『マリー・アントワネットに別れをつげて』です。フランス革命やマリー・アントワネットを描いた映画は数多くありますが、これはアントワネットの朗読係の視点で、アントワネットとその時代を描き、また、今まであまり見られなかったヴェルサイユ宮殿の裏側も描いた興味深い映画です。

1789年フランス革命が勃発。王妃マリー・アントワネット(ダイアン・クルーガー)に心酔する朗読係のシドニー(レア・セドゥ)は、王妃の為なら何でもできるという、まだあどけなさの残る若い女性です。そんな中、バスティーユ陥落のニュースが宮廷内を駆け巡ります。王妃は混乱のさなか、寵愛するポリニャック夫人(ヴィルジニー・ルドワイヤン)を国外へ逃がそうとします。夫人も処刑者リストのひとりだからです。王妃の身を案ずるシドニーに「あなたを見捨てたりしないわ」と告げた王妃でしたが、最終的に彼女はシドニーに世にも残酷な仕打ちをするのでした……。

マリー・アントワネットという人は、時代を超えていまだ人々を惹きつけてやまない輝きを放っているようです。映画化作品も多く、ソフィア・コッポラ監督作『マリー・アントワネット』は有名ですよね。パリ、ヴェルサイユ宮殿、コスチュームがファッション性を高め、フランス革命で悲劇的な最期を遂げたことがドラマ性を高めているのでしょう。また贅沢三昧の暮らしや恋愛など、これほど話題が豊富な王妃はいないかも?

でも『マリー・アントワネットに別れをつげて』は、これまでとは少し違った視点でマリー・アントワネットを描いています。ヒロインは王妃を愛する朗読係というのが新鮮です。
自分に心酔している朗読係の心を熟知しているアントワネットは、彼女を振り回します。王妃のクルクル変わる気まぐれが、バスティーユ陥落のショックで狂気じみて、徐々に激しさを増していく様子は怖いくらいです。あの時代、雇われる身としては自由などなく、この映画のように王妃の役に立つことが心の支えだったのでしょう。王妃のために必死に頑張る朗読係はけなげで、記者など「大丈夫?」と声かけてあげたくなりましたよ。でもそんな風に心酔させる魅力をアントワネットが持っていたのも確かです。

それは、、ダイアン・クルーガー演じるアントワネットが素晴らしかったからです。美しく、品格があるけれど、どこか危なっかしい様子は、宮殿でしか生きられないお姫様。と思ったら、愛する夫人を逃がすために画策するしたたかさもあり、つかみどころのない魅惑の王妃として輝きを放っていました。

また『アントワネットに別れをつげて』の主役は、ヴェルサイユ宮殿とも言われています。「パリでヴェルサイユ宮殿を観光したことあるわよ」という方もいるかもしれませんが、ノンノン!この映画で撮影された宮殿内部は、通常では入場禁止になっている場所も多いのです。ちなみに撮影箇所は、鏡の間と隣接する客間、ヘラクレスの間、小トリアノン、王妃の部屋へ続く階段。王妃の寝室は狭くてカメラが入れなかったため、メゾン・ラフィットに再現されたそうです。シャンティイ城の長い回廊も撮影で使用されています。

日本のお城はわびさびの世界ですが、海外のお城は絢爛豪華。でも表が華美だから、余計、使用人たちが右往左往する裏は暗く映ります。ヒロインの朗読係は、その暗く地味な裏で生きる女性ゆえに、この映画はヴェルサイユの裏側を見られる貴重な映画でもあるのです。

スポットライトが当たる豪華な世界で贅沢の限りをつくして生きてきた王や王妃が、裏で生きる使用人と同じように地味に生きてきた民衆にすべてを奪われる。でも最後まで、愛する美しい王妃を裏切れなかったため、裏で生きてきた朗読係もまた残酷な現実を受け止めなくてはならなくなるという……。胸にツンと突き刺さる物語は印象深いです。

フランス好き、アントワネット好きは必見! 美しさと悲劇に彩られた歴史ロマンに酔いしれてください。

(映画ライター=斎藤香
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『マリー・アントワネットに別れをつげて』
2012年12月15日公開
監督:ブノワ・ジャコー
出演:レア・セドゥ、ダイアン・クルーガー、ヴィルジニー・ルドワイヤン、グザヴィエ・ボーヴォワ、ノエミ・ルボフスキー、ミシェル・ロバン、ジュリー=マリー・パルマンティエ、ロリータ・シャマー、マルテ・コフマン、ヴラジミール・コンシニ、アンヌ・ブノワ、ドミニク・レイモン、エルヴェ・ピエール、アラダン・レイベル、ジャック・ノロ、ジャック・エルラン、マルティーヌ・シュヴァリエ、ジャック・ブーデ、ジャン=クレティアン・シベルタン=ブラン、ジャン=マルク・ステーレ、セルジュ・レンコ
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