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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、5月18日公開の宮藤官九郎監督作『中学生円山』です。脚本を担当したNHK連続テレビ小説「あまちゃん」で高視聴率、絶好調のクドカン監督が、テレビでは絶対に表現できない思春期の妄想ワールドを映像化した、ユニークな青春映画です。

円山克也(平岡拓真)は、自宅である団地と学校を往復している平凡な中学2年生。そんな克也は体を柔らかくする運動に日々余念がありません。それは己のエッチな妄想を実現するための修行でもあるのです。

そんな克也の住む団地にシングルファーザーの下井(草彅剛)という男が引っ越してきます。いつもベビーカーを押している子連れ狼のような下井。ある日、克也は下井から「もうすぐ届くよ」と言われ、大パニック! それは克也のエッチな妄想の秘密だったからです。

克也は「なんで知っているのだろう?」と、下井に近づくようになりますが、そのとき、団地で殺人事件が発生。克也は「犯人は、あのおじさんかも?」と疑うようになり、克也の妄想ワールドは、下ネタから下井、家族をも巻き込んで、大きくエスカレートしていくのです。

克也を演じるのは、クドカン脚本のドラマ「11人もいる!」に出演していた平岡くん。彼は台本を読んだとき「え!」と絶句して固まってしまったそうです。そりゃそうです、ご自身も思春期の真っ最中なのに、大勢の女性の前でスボンを脱いだり、奇妙なポーズでベロを出したり、かなり覚悟を決めないとできなかったでしょう。そもそも人には言えない、中学生男子の恥ずかしい妄想を映像化しているわけですから、平岡くんが戸惑ったのは無理もありません。

でも彼は立派にやりとげました。映画見終ったとき、記者は「よくやった、素晴らしい!」と平岡君を褒め称えたい気持ちになりましたよ。これぞ役者根性です!

監督第3作目で中学生の物語を描いたことについて、宮藤監督はこう語っています。

「俯瞰(フカン)で見ると、克也は主人公にはなりえないキャラクターだけれど、今回は冴えない人物の物語にしたかったのです。自分も冴えない中学生でしたからね。あ、でも、もう少しうまく立ち回っていたかな? ヤンキ―に対しては “今からそんなに楽しんでいたら、大人になっていいことないよ” と思っていたし、冴えないヤツには ”大丈夫かな“ と。どっちの気持ちもわかるので、中学生の物語だけど、脚本は悩まずに書けました」。

たぶん、宮藤監督のなかには、まだ ”中学生気分” が残っているのでしょう。大人が描く中学生のウソっぽさがここにはないですから。克也の妄想も監督が大人だったら、どこかでブレーキがかかるはず。でも宮藤監督は、そこを完全に振り切っていますからね、下ネタがフルスロットルで、役者たちもそれにしっかり応えています。克也の父を演じる仲村トオルなど、クールな表情を封印し、振り切った演技で戦士キャプテン・フルーツを熱演。「新境地を開拓したかもしれません!」と語っているくらいですから。

そして、克也が刺激を受ける下井を演じる草彅剛。謎めいた人物なので、つかみどころがない難しい役ですが、凄味と優しさを共存させています。いつも赤ちゃん&ベビーカーとセットで登場し、不気味だけど、なんか可笑しい。下井のキャラの作り方は見事だし、決して出過ぎない品の良さがあります。W主演として、平岡くんとのバランスを考えた芝居は見ていて安心! 草彅剛は本当にいい役者だな~と。やっぱりSMAP ナンバー1の演技派ですね。

中学生のエッチな妄想ワールドは、いい意味でくだらないです。健康的な朝ドラ「あまちゃん」を見て、クドカンに興味を持った人が、映画『中学生円山』を見に行くと「ギョッ!」とするかもしれません。でも、これもまたもうひとつのクドカン・ワールドなのです。
(映画ライター=斎藤 香)

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『中学生円山』
2013年5月18日公開
監督:宮藤官九郎
出演:草彅剛、平岡拓真、遠藤賢司、ヤン・イクチュン、鍋本凪々美、刈谷友衣子、YOU、田口トモロヲ、岩松了、坂井真紀、仲村トオルほか
(C)2013「中学生円山」製作委員会