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【映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。】

今回ピックアップするのは6月8日公開のドキュメンタリー映画『世界が食べられなくなる日』です。この映画は2つの危機にアプローチしています。ひとつは、遺伝子組み換え食品の動物実験の真実をじっくり追いかけながら、気づかないうちに口に入っている食品の危険性。もうひとつは、原発の危険性です。

関係がないように見える遺伝子組み換え食品と原発だけど、根底に流れるのは、人間が人間の生を奪う物を作りだしているという事実。この映画は、それを丹念に追いかけたフランスのドキュメンタリーです。

2009年にフランスで極秘に行われた実験。ラット(実験用マウス)に、遺伝子組み換えトウモロコシ、農薬をいくつか組み合わせて2年間与えました。すると、ラットの体に恐ろしい変化が現れたのです。

ちなみに日本は遺伝子組み換え食品の輸入大国。食品には表示はあるけど、飼料には表示義務はないため、私たちは知らない間に危険な遺伝子組み換え食品を食べていることになるのです。記者も遺伝子組み換え食品は、スーパーで「遺伝子組み換え食品ではありません」という表示で知ってはいましたが、こんなことになっているとは……。この真実には、背筋が凍る思いでした。

もうひとつこの映画が取り上げた危機である原発。世界第2位の原発保有数のフランスは、原発エネルギーに頼っているけれど、大きなリクスも抱えているのは誰もが知っています。そのリスクとは、原発が人間に及ぼす危害。特にチェルノブイリ、スリーマイル島、そして福島原発の事故は、その危険性を表面化し、世界に知らしめました。

この映画のスタッフは、福島県の取材も敢行。原発の事故によって人生を狂わせられた人々の声を集めました。その中には以前、このレビューでも取り上げたドキュメンタリー映画『飯館村 放射能と帰村』に登場した方もいましたね。東電への抗議のため、夫が自殺した農家の女性は「津波だけだったら夫は自殺することはなかった」と語り、原発の事故が農家で地道に働き、生活を営んでいた人間の命を奪った事実を浮き彫りにします。

いつまでこの状況は続くのでしょう。元の生活を取り戻すことはできなくても、せめて希望の光を……と誰もが思っているはず。それが生きる糧となるのですから。それさえまだ見いだせないのは、原発問題も復興も遅々として歩みを進めることができないから。海外からでもそれは見えているのです。だから、ジャン=ポール・ジョー監督も福島にスポットをあてたのでしょう。

ジャン=ポール・ジョー監督は、遺伝子組み換えと原発を一緒に取上げたことについて、こう語ります。

「この二つには大きな共通点があります。ひとつ目は、取り返しがつかないということ。一度汚染されたら、元に戻らないというのは、生命の歴史で初めてのことです。もうひとつは、世界中ですでに存在しているということです」

元に戻らない……。遺伝子組み換え食品を食べたら、その毒は体を侵していくのです。そして原発も被爆したら、もう消すことはできないのです。

明日を担う次世代に期待して、この映画を作ったという監督。今まで知らなかったことを知ること、緊急事態にあることを認識することが大切だとも語っています。ことさら大袈裟に感動させたり、厳しい言葉を投げかけたりする映画ではありません。淡々と真実を追いかけていくドキュメンタリーですが、淡々と静かだからこそ、真実がズシンを胸に響きます。見る人の意識を変化させる力を持った映画と言えるでしょう。
(映画ライター=斎藤 香)

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『世界が食べられなくなる日』
2013年6月8日公開
監督:ジャン=ポール・ジョー
ナレーション:フィリップ・トレトン