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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、米エンターテインメント・ウィークリー誌による「2013年のベスト映画10本」のひとつにも選ばれた、ジェシーとセリーヌの恋愛物語『ビフォア・ミッドナイト』です。

第1作目『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』でふたりは出逢い、第2作目『ビフォア・サンセット』でその関係を深め、そして本作『ビフォア・ミッドナイト』では子供を持つカップルとしての姿を見せてくれます。

【監督とキャストについて】

監督とキャストは1作目と変わらず、リチャード・リンクレイター監督、イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー。同じ監督とキャストで若い頃から今に至るまでを描いていく映画というのは珍しいかも。それだけジェシーとセリーヌはもちろん、この映画そのものが強烈な個性を持っているからでしょう。なんたってふたりは全編でずーっと語り合っていますからね。恋愛ディスカッション映画のようです。

【舞台背景】

物語の舞台はギリシャ。小説家のジェシー(イーサン・ホーク)とセリーヌ(ジュリー・デルピー)は、双子の娘とジェシーの元妻との息子とバカンスで滞在中。米国に帰る息子を見送るため空港まで来たジェシーは、息子との別れるのが辛くなり、すぐ会えるように元妻の住むシカゴにみんなで移住しないかとセリーヌに提案します。ところがこの一言にセリーヌはショックを受けてしまいます。ギクシャクしてしまう二人。

しかし、友人たちのはからいで、子供たちを預け、二人きりの時間を過ごすことで再びロマンチックな気持ちを甦らせたジェシーとセリーヌ。ところが、ベッドでの会話で、ジェシーはまたセリーヌを怒らせてしまい、彼女は部屋から出て行ってしまうのです。

まず、ジェシーとセリーヌを知らない人のために前2作のおさらいをしましょう。

▼1作目『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)

列車のなかで出逢ったアメリカ青年のジェシーとフランス女性のセリーヌ。気の合った二人はウイーンの街を歩きながら、夜が明けるまで、ときには真面目に、ときにはふざけあいながら様々なことを語り合い、お互いの気持ちが高まっていきます。そして、ふたりは、半年後に会う約束をしてサヨナラするのです。

まるで恋愛ドキュメンタリーを見ているような錯覚に陥るラブストーリー。恋の始まりと徐々にテンションが高まるプロセスが最高にロマンチック。恋愛下手の人はふたりの会話術に学べることもありそうです。

▼2作目『ビフォア・サンセット』(2004年)

ウイーンで別れてから9年後、作家になったジェシーが訪れたパリの書店でふたりは再会。9年の日々をパリの街角、カフェ、セーヌ川のほとりで語り合います。ジェシーは既婚者で子供もいますが、帰国便の時間になってもセリーヌから離れることができず、そのまま彼女の家へ……。

ジェシーの恋の炎が再熱しているのが手に取るようにわかって面白い! また、セリーヌのジェシーに対する押し引きの巧さも見ものです。単純なアメリカ青年と手強いフランス娘というカップルの会話劇は、復活愛を見事に描いています。

▼そして3作目の『ビフォア・ミッドナイト』

いつまにやら、ふたりは子供を持つ親になっていますが、そのキャラクターは変わりません。人って年を重ねても「中身は変わらない」と思ったりするじゃないですか。ジェシーとセリーヌも見た目は年相応に老けていっていますが、根底は何も変わらず、そこにどこか安心したりして。

このシリーズは「アドリブじゃないの?」というくらい、自然なコミュニケーションを見せてくれますが、リンクレイター監督曰く「よく言われるけど、すべてシナリオに書かれているセリフ通りだ。作品の構想と脚本には膨大な労力を注いでいるからね。それが即興に見えるのは、イーサンとジュリーの演技力だよ」と語っています。イーサンは「耳から血が出るんじゃないかってくらいリハーサルをしたからね」といい、長回しの撮影が多いことについてジュリーは「拷問のようだわ。ときどき泣きたくなった」とのこと。

脚本はリンクレイター監督とイーサンとジュリーの共同脚本。1作目は監督と別の脚本家だったけれど、2作目から監督とイーサン&ジュリーの共同脚本になったのです。演じる二人が脚本に参加しているからこそ、いまそこにいるようなリアルなカップルになるのでしょう。

ちなみにこのシリーズはふたりの会話が話題になりがちですが、ロケーションも抜群にいいのです。『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』のウイーン、『ビフォア・サンセット』のパリ、『ビフォア・ミッドナイト』のギリシャ。今回は古代メッシーニの遺跡、メッシーニ城、海辺の街なども出てきて、青空や風も感じることができます。

このシリーズはいつもジェシーとセリーヌの旅に同行している気分になれるところもポイント。若い頃、出逢った二人が、再会を経て、子持ちカップルになって、さあ、どうなる? 恋愛進行中のふたりで見てもよし、女同士で見てもよし! 見た後いろいろ語りたくなる映画と言えそうです。
(映画ライター = 斎藤香)

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『ビフォア・ミッドナイト』
2014年1月18日公開
監督: リチャード・リンクレイター
出演: イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー、シーマス・デイヴィー=フィッツパトリック、ジェニファー・プライアー、 シャーロット・プライアー、ウォルター・ラサリーほか
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