P1120739このカラフルで積み木のおもちゃみたいな建物、なんだと思いますか? 

実はこれ、賃貸住宅なんです。それも驚くなかれ、スペインとかアメリカ・カリフォルニアとかにあるのではなく、東京都三鷹市にある賃貸住宅なんですよ! 「おしゃれな物件は最近増えているからね。なかは普通の間取りだろう」と思うかもしれません。

しかし、この「三鷹天命住宅 In Memory of Helen Keller」はそんな予想をぐわっと覆します。待ち受けているのは一般的な賃貸住宅からはかけ離れたお部屋。お部屋の内容と、そこに込められたアーティストの想いを紹介します!

■どの部分を見てもカラフル!

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入ってすぐに気づくのは、お部屋が外観に負けず劣らずカラフルであること。どの部分に目をやっても、6色以上の色が視界に入るように作られているんだとか。最初はカラフルに感 じますが、しばらくいると身体になじんできて違和感がなくなってくるのが不思議です。

■床は波打ち、でこぼこ!

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また床が普通と違うことにも、部屋に入ってすぐに気づきます。平らではなくでこぼことして波打っているのです。歩きづらいかなと思いきや、歩いてみると凹凸が土踏まずに当たって気持ちがいい。この凹凸は大人と子供の土踏まずの大きさに合わせて作られているんだとか。しばらく歩くと、無意識のうちに自分の気持ちのいい部分を選んで歩くようになります。身体って不思議。

■天井の高さにも仕掛けが!

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床が波打って部屋の中に勾配があるだけではなく、天井の高さにも仕掛けが。天井に傾斜がついているので、部屋の中で天井高が大きく違うのです。中央のキッチンは一段下がっているので、そこからだと目線はとても低い位置。そんな部屋にいると、自分と相手の立ち位置の関係で、さっきまでミクロちゃんに見えた人がノッポになったり、妙に存在感を感じたりします。「大きさって何だろう? 存在感って何だろう?」と、今まで当たり前に思っていたことを問い直したくなっちゃいます。

■球体の部屋で声を出すと……

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壁も床も天井も丸い球体の部屋で声を出すと不思議なことが起こります。小さな声で出しても音が響き四方八方に反射して、部屋全体から音が返ってくるのです。まるで声のシャワーを浴びているよう。

■キッチンが真ん中にドーン

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間取りもユニーク。部屋の真ん中にキッチンがあります。まるで、ネイティブ・アメリカンのティピー(テント式住宅で真ん中に煮炊きの場がある)のよう。扉のある部屋も1つしかないオープンスペースなので、一緒に住む人とのコミュニケーションが増えそうです。

ほかにも洗面台の床が斜めになっていたり、シャワーのドアが透明だったり、コンセントが天井から下がっていたり、はしごに上って視点が変えられたり……

一般的な住宅が、利便性やコストをものさしにしていることが多いのに対して、この三鷹天命反転住宅は人間の五感や住む人のコミュニケーションを重視して作られているのです。

■「死なないための住宅」

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この三鷹天命反転住宅を手がけたのは、NYを中心に活動を続けた世界的アーティスト荒川修作と、妻で詩人のマドリン・ギンズ。幼少期に戦争を体験した荒川は、「人間が死なないようにしたい」と願って医者を志しますが、医学をもってしてもどうしても助けられない命があることを実感し、本当に「人間が死ななくなる」ことを実現する仕事は、新しい常識を作る仕事=芸術ではないかと考えNYへ。

渡米して出会ったマドリン・ギンズとともに、天命反転(Reversible destiny=運命をひっくり返すこと)をテーマに様々なアート・建築作品を発表しています。この住宅も、「人間が死なないように」ということを願って作られた作品なのです。

荒川+ギンズの東京事務所・ABRFの松田さんは言います。

「これは私の解釈ですが……、『どうせ、いつかはみんな死ぬんだから』と考えて生きていくのと、『みんな死んじゃいけない』、『人間は死なない可能性もあるんじゃないのか』と考えて生きるのでは、行動が変わってきますよね。みなさんがそれぞれ持っているたくさんの感覚や身体を使って、人間の無限の可能性を感じてほしいという願いが、この住宅には込められているのではないでしょうか。」

■見学やショートステイできるよ! 今なら住むことも!!

三鷹天命反転住宅は、全9戸のうち、5戸が賃貸向け、2戸が管理事務所、2戸がショートステイや見学会等に使われる部屋となっています。2014 年1月現在、賃貸向けには 1 戸の空きあり。ショートステイは7日以上から滞在することができます。

また、不定期で見学会も。直近の見学会は2月1日(土)、2月2日(日)。「子供から身体性を学ぼう」と、子供や赤ちゃんが参加できる見学会もあるので、ホームページをのぞいてみてはいかがでしょうか?

五感を使って生活をしたら、人間の持っているさまざまな能力が開花されそう。「ここに住んだら、死なないかも!」そんなことを思ってしまう住宅でした。

【三鷹天命反転住宅 In Memory of Helen Keller】
住所:東京都三鷹市大沢2-2-8
アクセス:武蔵境駅より狛江駅(調布駅経由)または吉祥寺駅行きバスで大沢下車徒歩3分

参照元:三鷹天命反転住宅 公式サイト, Facebookページ

(取材・写真・文=FelixSayaka
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▼14色の色合いと、円筒や球形、立方体が組み合わさる不思議な外観▼

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▼廊下も、手すりもカラフル!▼

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▼室内は、どこを見ても6色の色合いが視界に飛び込んできます▼

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▼台所をぐるっと囲むように部屋が配置されています。コミュニケーションが自然と生まれるお部屋です▼

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▼床はでこぼこで波打っています。ざらっとした質感で、「歩いてみると、意外に転ばない」と意外と高齢者にも人気なんだとか。▼

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▼コンセントが天井からも▼

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▼天井にはたくさんの金具がつけられ、ハンモックをかけたりハンガーをかけたりと、自由な発想で使えます▼

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▼手洗い場もビビッド。お風呂の扉は透明です▼

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▼畳部屋は、丸い畳によって自然と一緒に座っている人と自然に向き合ってしまいます。▼

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▼居住している一家のお子さんは、お父さんに叱られるとハシゴを上まで登るそう。上に上がるとお父さんが怖くないのだそうです。気持ち、わかる!▼

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▼事務所も、賃貸のお部屋と同じ間取り。ハシゴを本棚代わりに使っていました。▼

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▼三鷹天命反転住宅の門。色ビー玉がかわいい。▼

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