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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、ウディ・アレン監督作『ブルージャスミン』です。ケイト・ブランシェットが2012年度アカデミー賞主演女優賞を受賞した作品。セレブリティに対する嫌味スパイスがばっちり効きまくっているところがアレンらしい人間ドラマと言えるでしょう。

【物語】

ジャスミン(ケイト・ブランシェット)はNYでセレブ生活を満喫していたけれど、実業家の夫ハル(アレック・ボールドウィン)との結婚が破綻し、サンフランシスコに住むジンジャー(サリー・ホーキンス)の元にやってくる。

同じ里親の元で育った二人は血のつながりはないけど姉妹のような関係。昔のセレブ生活を取り戻したいジャスミンは働こうとするけれど、実は彼女は何もできない女。何もかもうまくいかない毎日に苛立ち、ジャスミンの心は次第に壊れていってしまう……。

【ひとりの女性の心が病んでいくリアルな姿】

心が壊れるとか言うけど、実際にどうして、どうやって崩れていってしまうのか、記者はこの映画で初めて人の心が壊れていく様を見た気がします。そもそもジャスミンはファーストシーンからおかしなことづくめでした。一文無しのはずなのに、飛行機はファーストクラス、旅行用トランクはヴィトン、スーツはシャネル! そして飛行機で隣席の女性に自慢話(!?)をまくしたてて、ケラケラ笑っているのです。そして、その後にわかる彼女の無能さ! 

そんなどうしよもない自分にイライラ、セレブ生活と今の生活の差にイライラ、どうしていいのかわからず独り言が多くなっていくジャスミン。この壊れゆく女をケイト・ブランシェットが丁寧に演じています。そのリアル度のスゴさと言ったら! 笑顔を作っても目が笑ってないし、だんだんどこを見ているのか、誰に向かってしゃべっているのかわからなくなっていく。最初は「ジャスミンったらヤバイ人」とニヤニヤしながら見ていたけど、だんだん笑えないほどに緊迫していくのです。

【薄っぺらなセレブ界をアレン監督がバッサリ斬る!】

ジャスミンはかつてNY社交界の華でした。「パーティの仕切りはうまかったのよ~」と言われても、生活能力ゼロの彼女はインテリアのセンスとか社交術を生活に活かすことはできたはずなのに、それをどう活かしていいのかわからないのです。そこがダメさのキモ! 自分を客観的に見られないのですね。

セレブのプライドの高さと薄っぺらさの真実をジャスミンを通してこれでもかと見せつけるアレン監督のイジワルなこと! またジャスミンが自ら招いた不幸がわかる後半も驚きの展開。本当に目が離せません。

【ケイト・ブランシェットが語るジャスミンという女】

ジャスミンを見事に演じたケイト・ブランシェットは、さすがジャスミンを深く理解しています。ジャスミンの本名はジャネット。平凡な名前を詩的なものにしたくてジャスミンに変えたのですが、そのことについてケイトは鋭い指摘をしています。

「芝居がかった演出よね。スカーレットみたいな全然違う名前にするのではなく、ジャネットからジャスミンだもの。彼女はいつだって事実から少しだけ外したところに足を踏み入れるの。この名前くらいの小さなことなら罪はなかったのに、同じような事を繰り返すうちに、ジャスミンはどんどん現実から遠のいてしまうのよ」

またケイトはジャスミンの人生について、こんな事も語っています。

「ジャスミンは自分の才能にわずかな自信しかなかった。だから本来の自分以上に見せる演出を常にしないといけなくて、直感で口から出た言葉を真実にするために進んでしまったの。真実は時に恐ろしい物よ。特に人生を丸ごとフィクションのなかで過ごしているときはね」

そうそう、ケイトの言うように、最終的に虚言癖の女みたいにもなっていくジャスミン。セレブ界に戻るチャンスをくれる男が現れるんですが、これがまた……。ネタバレになるので語れませんが、ジャスミンにしてみれば、アレンのいじわる!っていうのが本音でしょう。

地位やお金や物質に執着心のある人は、この映画、ちょっとゾっとするかもしれません。そりゃお金は大切ですよ。でも自分がしっかり働いて得た収入ではなく、よからぬことで得たお金による幸福は長くは続かないってことですかね。人生の反面教師として『ブルージャスミン』、見るべき映画ですよ。

執筆=斎藤 香 (c) Pouch
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『ブルージャスミン』
2013年5月10日より、新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
監督: ウディ・アレン
出演: ケイト・ブランシェット、アレック・ボールドウィン、ルイス・C・K、ボビー・カナヴェイル、アンドリュー・ダイス・クレイ、サリー・ホーキンス ピーター・サースガード、マイケル・スタールバーグほか
(C)2013 Gravier Productions, Inc.

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