in_main_large
[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは映画『ぼくたちの家族』(5月24日公開)です。本作は、早見和真の同名小説を『舟を編む』で2013年度の各映画賞を受賞した石井裕也監督が演出した新作。

家族を支えてきた母親が病に倒れ、父親と息子二人がとまどい、苦悩し、ぶつかりあいながらも母親のために奔走する姿を描いたホームドラマです。記者的には石井監督の前作『舟を編む』を上回る作品だと思います。男たちのみっともなくもたくましく愛しい姿がもうたまらん映画なのですよ。

【物語】

若菜家は、会社を経営する父(長塚京三)と専業主婦の母(原田美枝子)、長男の浩介(妻夫木聡)、二男の俊平(池松壮亮)の4人家族。浩介は結婚をして独立し、俊平は大学生。アパートで一人暮らしをしています。ある日、浩介の妻の家族との夕食会の席で失礼な発言をして周囲を戸惑わせた母。物忘れもひどく、病院で診てもらったら、脳腫瘍でした。その事を機に普通の4人家族だと思っていた若菜家の問題が次々と明るみに。そして、母の余命を知らされた父、浩介、俊平は、家族と正面から向き合うことになるのです。

【家族における男のダメな感じが絶妙!】

父と息子二人の中に紅一点の母。その母が病に倒れたとき、どうなるか……と思ったら、やっぱりダメなんですね男だけだと。その感じが本当に手に取るように描かれていて、病に倒れたお母さんには申し訳ないけど、ダメさ加減にニヤっとしてしまいました。ここに娘がいたら物語は全く違うものになっていたでしょう。でもこの映画のキモは残された家族が男ばかりということなのです。ダメだけど愛しくなってきちゃうんですよ。

父親は入院した妻を前にとまどい、一晩付き添うだけなのに不安で何度も長男に電話してしまいます。長男は身重の妻に母の病状をきちんと伝えられず、その場しのぎの言葉で繋いでしまいます。そして次男は母の病を前にとまどい、ちょっと斜に構えています。でも3人の想いは一緒。「母を助けたい」。彼らはその想いを少しずつカタチにしていくのです。「何とかしなきゃ、このままじゃダメだ」そんな心の声が聞こえてくるよう。不器用ながらも母への愛に突き動かされ、3人それぞれ役割分担をして、母を助けるために奔走します。本当に頑張るんですよ~。そんな彼らを見ているうちに記者は涙腺が緩んで仕方ありませんでした……。

【石井監督の家族への想いが託された作品】

この映画は永井プロデューサーが石井監督にアプローチしたのがきっかけですが、石井監督は原作を読み「これは僕の話だ」と思ったそうです。石井監督の家族と若菜家の家族構成は同じであり、監督は7歳で母親を亡くしているのです。

「距離を置いて家族をじっと観察して、くだらねぇとニヒルを気取る次男の感じはよくわかるのです」

と石井監督。プロデューサーとの打ち合わせのときは、すでに監督が持っていた原作本にはビッシリと書き込みがあり、53ページのプロットができていたそうです。そして、そのプロットで主人公は浩介になっていたのです。石井監督は長男の浩介を主人公にしたことについて、こう語っています。

「これは、母を救う話だと思ったのです。僕の場合は幼かったので、病気の母の為に何もできませんでした。でも、もう一度その機会があるのなら、全てを背負い込みたいと思ったのです。弟の立場はよくわかるのですが、今度は兄の立場で奮闘したいと思いました」

この映画には、石井監督の亡き母への想いもつまっているのです。

【原作者のお父さんが映画を見てつぶやいた言葉】

原作者の早見氏にとっても、この映画は自伝的なもの。映画化されることになり、石井監督は早見氏の家族に会ったそうです。「ご両親をロケハンさせてください」とお願いしたとか。そして出来上がった映画を見て早見氏は「石井監督は、勝ったな」と思ったそう。そして何より、早見氏のお父さんの言葉にジンとしました。

「俺、石井さん(監督)ってちょっと苦手だなあ。なんか見透かされているみたいでさ……。お母さんにも見せてあげたかったな」

目を真っ赤にしてそう語ったそうです。早見氏のお母さまは映画完成の前年に亡くなったのです。生前「私、原田美枝子に似てる?」と言っていたそうです。こんな素敵な映画になって、きっと天国で喜ばれているでしょう。

【逆境が家族の絆を深める!】

『ぼくらの家族』は、家族の大ピンチを家族で立て直していく物語です。何が素晴らしいって、崩壊寸前のピンチなのですが、父も長男も次男も決して諦めないところです。そう、「諦めたら終わりだな」と、この映画を見て改めて思いましたよ。希望の光がわずかしかなくとも、それに懸けるのが生きることかもしれません。家族の危うさと温かさと絆を描いた『ぼくらの家族』。心にズンと響く映画を求めている人はぜひ!
執筆=斎藤 香(c)Pouch
in_main1_large

in_main3_large

in_main2_large

『ぼくたちの家族』
2014年5月24日より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:石井裕也
出演:妻夫木聡、原田美枝子、池松壮亮、長塚京三、黒川芽以、ユースケ・サンタマリア、鶴見辰吾、板谷由夏、市川実日子
(C)2013「ぼくたちの家族」製作委員会

▼動画もご覧くだされ