大山椒魚
《大山椒魚》
(2003年/パネル、アクリル絵具/314×420cm/撮影:木奥恵三/高橋コレクション蔵)
(c) AIDA Makoto / Courtesy Mizuma Art Gallery

1匹の巨大な山椒魚に少女が2人寝そべる、という一見すると男性主権的な性イメージの描出に思える……ものの、少女の不敵な笑みを中心に、むしろ男性(=山椒魚)が少女(女性)に翻弄されるという一面を表現している、会田誠さんらしい作品のひとつだと思います。

ということで!「女性」を「芸術的」にも「男性性的」にも愛し続けている現代アーティストの会田誠さんにインタビューするシリーズの第2回目!

今回は、美術館デートのゼヒなどをおうかがいしましたよ! 前回と同じく、ひどく濃い内容となっております……!

―――美術館デートについて、会田さんはどう思いますか?

会田誠(以下、A):僕はもともと美大生で、卒業してからも美術畑だから、時々できていたカノジョはほぼ全員「作り手」の女性。だから、「デートは美術館にしようか?」なんて会話はしたことないけど、なんとなく「あの展覧会、行くよね当然」みたいな感じで。作り手同士だからデートという意識はなかったし、「この展覧会のチョイスはどうだろう?」とか「そのあと気まずい雰囲気にならないかな?」なんて気づかいもしなかった。

でも、シマヅ(記者)さんが言う「美術館デート」は、作り手や作り手の卵じゃない人たちがデート先に美術館を選ぶ、一般的な「美術館デート」のことだよね?

―――はい。実は、「それってどうなんだろう?」みたいな違和感がありまして…。

A:ああ、気持ちは分かるよ。僕が「芸術って素晴らしいな」と思ったのは16歳のころに世界名作文学を読んだのがきっかけで。文学って、1冊の本を2人で読むこともないわけで、「エンターテインメント」とは違う、どんどん「内側」にこもっていかせる、芸術特有のパワーというか……。つまり芸術っていうのは、孤独な精神あってこそ鑑賞の状態として万全なものになる、と、とりあえず言えると思います。

一方……そんな「孤独な青年の深夜の追い込みとしての芸術」とは違う、「人と人との触れ合いが起こりました」みたいなジャンルの芸術表現もこの世にはいっぱいある訳で。ちなみに前者はだいたい19世紀あたりの芸術観、後者は21世紀に顕著になった芸術観だと思います。

なので、「美術館デート」という響きに憧れているだけであろうがそうでなかろうが、芸術鑑賞はデートに向かない、とは断言できないかな。もしかしたら、その作品によっては、恋人同士あるいは付き合う前の男女が関係性とかを考えるための良いヒントを与えられるかもしれないですし。

―――なるほど。

A:ただね、良い悪いではなくて……僕の展覧会を見にくる男女のカップルにムカつくことはある(笑)

―――あるんですか!? (笑)

A:それは、彼女の方があまりに可愛いときね。例えば公開制作している最中に、通過していくお客さんをちらちら見たりするのだけど、森美術館とかだと10人に1人くらいギョッとするほど可愛い子がいるんだよね。でも、ギョッとしたあとすぐに周りを見ると、だいたい隣かちょっと離れたところに男がいる。ま、彼氏連れだよね(笑)

―――それがムカつくと(笑)

A:はい(笑)

美の巨匠

―――美術館デートのススメというか、おすすめの美術館とか、女子が美術館デートをするうえで大切なことを教えてください。

A:スゲー想像力が必要な質問だな(笑)。男が「美術に一家言あるぜ!」というような奴だったら、相手にしゃべらせておいて「へー! そうなんですか!」とか言っておけば、素直な女だなと思って、男はイイ気になるでしょうね……。

おススメの美術館は……あ、少し話がズレるけど、美術館の建築は一流建築家にとって、実験的なことができる、またとない箱なんですよ。デートじゃなくても、地方の人が東京やロンドンやニューヨークなどの大都市に行って、ぱっとしない自分の田舎町とは違う異質な空間を味わいたいってことで、現代美術のイケてる美術館とかに行くわけでしょ。それはそれでいい。でもそれは、ヒドい比較をすればラ〇ホテルとある意味似たようなもので。つまり美術館というのは、奇妙な形で人を驚かせ、日常から飛び出したいという需要に応えるラブ〇建築と仲間なんですよ。

―――美術館はラブ〇建築と仲間!

A:うん。そう考えていい。で、美術っていうのは色々あるけれど、1つの役割は、日常の実用的で妥当なものからはみ出す体験をすることでもあるんだから、そういう風にお使いいただいてよいわけです。

少し関係ありそうな話だけど、世界中のイケてる現代美術館って、結婚の記念写真を撮影する場として、よく使われるよね。展覧会の設営のために行くと、美術館の外でしょっちゅうウェディングドレスを見かけるよ。

―――どの美術館に行っても、とりあえずおススメ、と。

A:でも、具体的に東京で、「ここはズバリおススメ」というところはパッとでてこないんですけどね。箱自体が特別すごいなと思うのは東京だとあまりないかな。森美術館とかは悪くはないんだけど、ニュートラルで特別変わった空間ではないし。

日本にも、東京を離れれば面白いところはある……かなぁ、金沢21世紀美術館とか、豊田市美術館とかは「特別なところに来たな」って感じにさせてくれるし。まぁそこまで異空間じゃなくてもいいとしたら、東京で昔から美術館デートの定番になってる、原美術館とかかな。あそこは元大物実業家の邸宅だっけ? そんなに変ってるわけではないけど、日本にはあまりない建物の珍しさもあって、非日常感はあるかもね。

―――確かに。

A:そういうのがなー。あれだけの規模を誇っていながら東京都現代美術館(以下、都現美)がなんかこう……行ってもテンションが上がる感じがないのが、都現美のダメなとこだよなー。箱ではなく中身は良いんだけどね。

―――(笑)これ、記事にしちゃっていいんですか?

A:いいよー。だって「どうして都現美はいっぱい金かけてコレにしちゃったんだ?」ってのは、業界の人はみんな言ってることだから。

―――美術館デートの話の総括としては……。

A:やれ! と。

それに、美術/芸術は、作者によってまちまちではあるけれど、わりとセクシーであることが多いと僕は思うね。僕の作品のような裸の女の人が出てくるかどうかに限らず。「デート後、今夜はラ〇ホに行くぞ!」という下心を持った男の、その前戯としての美術はアリでしょう。なぜ前戯の役割を果たすかというと、美術っていうのは視覚の刺激。それは言語中枢をショートカットして、直接こう……ホルモンとかをつかさどる、脳みその奥の方にある部分へダイレクトに届くことがあると思うんだよね。それがセクシーっていう意味。

だから、美術館から出た男女は、深いところでムラムラしてることが多いんじゃないかな。作り手も、そんなに「性的なものを作るぞ!」って気がなくても、ある種の間接的な性的刺激を与えることが多いんじゃないかな。スケベ多いしね。男性アーティストも女性アーティストも。

―――(笑)では、美術館デートはおススメということで。

A:おススメです。ラブ〇テルへの最短ルートです。

「美術館建築はラブ〇テルの仲間」という至言のほか、リアルな「性と芸術」の話をしてくださった巨匠でした。

次回、ついに最終回! 「アーティストの男と付き合うことについて」など、会田誠さんの名言の数々をお届けします!

参考
金沢21世紀美術館
豊田市美術館
森美術館
原美術館
東京都現代美術館

取材・撮影・執筆= シマヅ