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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、スタジオジブリの新作アニメーション『思い出のマーニー』(7月19日公開)です。宮崎駿監督が『風立ちぬ』を発表したあと引退宣言。その後のジブリはどうなる? と誰もが思ったことでしょう。しかし、やはりジブリは才能の宝庫なのですね。米林宏昌監督の新作『思い出のマーニー』を見たとき、この人が今後のジブリをしょって立つかも! と思いましたよ。

『思い出のマーニー』は幻想と現実の中を浮遊するような感覚を抱かせる映画であり、かつて少女だった女性なら誰もが懐かしい気持ちに浸れる乙女映画でもあるのです。

【物語】

北海道で暮らす12歳の杏奈(声・高月彩良)は、病弱のため療養のために海辺の村でひと夏を過ごしていました。複雑な生い立ちにより他者に心を閉ざしていた杏奈。その彼女の目を引いたのは入江に立つ古い洋館。湿地にあるため湿っち屋敷を呼ばれていたその家に興味を抱いた杏奈は、ある日、そこで金髪の少女と出会います。彼女の名前はマーニー(声・有村架純)。杏奈はマーニーに会うのが楽しみになり、二人は友情を育んでいくけれど、マーニーとの時間は不思議なことが多すぎて……。

【幼少の頃の憧れが甦る少女趣味にうっとり】

この映画の原作はイギリスの児童小説(ジョーン・G・ロビンソン著)で、この原作の舞台を北海道に設定して米林監督の世界観で描いたのが『思い出のマーニー』です。金髪の美少女、古い洋館、ヒラヒラのかわいいドレス、キュートなマーニーの部屋のインテリア、少女時代に一度は憧れた外国の生活様式。畳の部屋とかこたつとか、大人になればその良さもわかるけど、少女時代はそういう物がダサイと思ったことあるでしょう。

そんな少女時代、海外の児童書を読みながら、海の向こうに想いを馳せていたあの頃をほうふつさせてくれるのですよ。あのときの憧れの世界、憧れの少女こそがマーニーなのです。

【幻想と現実を行き来するヒロイン】

複雑な生い立ちと病弱なカラダを抱えている悩めるヒロイン杏奈が、マーニーと出会うことで友情に目覚めます。一部、百合映画とか言われているけど、そういうのとは違うような……。杏奈にとっては初めての親友がマーニー、失いたくないからこそ、彼女にこだわるのです。でもマーニーには不思議なことが多すぎます。一緒にいたのに、ふと消えてしまったり、何かにおびえていたり……。杏奈はもっと彼女を知りたいと思う。そして彼女の秘密を紐解いていくことになるのです。

この現実と幻想の描き方、その境界線は曖昧なのですが、実にフワリと浮遊するような感じがして、見ている方も杏奈とともに不思議体験をしているよう。そしてこの不思議な世界があるからこそ、その謎を解きたいとマーニーへの興味がどんどん深まっていくのです。

【脱・宮崎駿を心がけた米林監督】

米林監督は『借りぐらしのアリエッティ』で監督デビューしました。この作品もかわいらしく評判でしたが、まだ宮崎駿傘下の作品。しかし、今回の『思い出のマーニー』は宮崎駿が関わっていません(もうひとりのジブリの巨匠・高畑勲監督もかかわっていません)。新しいジブリアニメーションなのです。絵のテイストはおなじみのジブリですが、いつもよりインテリアや美術に凝っているような……と思ったら、映画美術の重鎮・種田陽平氏が初めてアニメーションの美術監督を担当したそうです。

杏奈の部屋のグリーンを基調にしたインテリア、マーニーの外国の子供部屋、舞踏会のシーン、おいしそうな食べ物など、今までのジブリ映画では見られなかったシーンも満載です。そして米林監督はこう語っています。

「僕は宮崎さんのように、この映画1本で世界を変えようなんて思っていません。ただ『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』の両巨匠の後に、もう一度、子供のためのスタジオジブリの作品を作りたい」

そう、宮崎駿監督の映画はある種、硬派でありメッセージ性もあったので大人へのアピールが強かったと思います。でも米林監督の映画は『借りぐらしのアリエッティ』も『思い出のマーニー』も描いているのは小さな世界です。でもそこには懐かしい感情が隠されており、大人になって封印していた「あの頃の自分」が呼び覚まされるのです。正直、男子はちょっとわからないかもしれない……。でも女性は必見。乙女心を刺激されますよ。
執筆=斎藤 香 (c) Pouch
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『思い出のマーニー』
2014年7月19日より、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、新宿バルト9、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:米林宏昌 
声の出演:高月彩良、有村架純、松嶋菜々子、寺島進、根岸季衣、森山良子ほか
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