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[公開直前☆最新シネマ批評・インタビュー編]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品の主演インタビューをお届けします。

クライマー パタゴニアの彼方へは世界的なクライマーであるデビッド・ラマが登頂困難と言われるパタゴニアの山セロトーレの南東稜を目指すドキュメンタリーです。

フリークライマーとしてW杯総合優勝を達成したラマでさえ約3年を費やし、苦難の連続だったセロトーレへの挑戦。彼がそこで体験したこと、なぜ登るのか……ということなど、デビッド・ラマ氏に聞いてきました。

【物語】

南米パタゴニアの鋭鋒セロトーレは世界中のクライマーを惹きつけている難攻不落の山。そこにW杯総合優勝のクライマー、デビッド・ラマがフリークライミングで挑むことになります。2009年一度目の挑戦。ラマは、命綱のロープを使用しつつも、山の自然な造形のみを頼りに登って行きます。しかし天候はうつろいやすく……。

2011年、2度目の挑戦は、アルピニストのペーター・オルトナーをパートナーに誘います。困難の末になんとか登頂成功と思いきや、先人が残したボルトを使用したため、フリーとは認められませんでした。

そして2012年、デビッド・ラマは自らの限界に挑む3度目の登山に挑むのです。

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【セロトーレがラマに与えたものとは】

デビッド・ラマ氏は小柄でちょっと童顔な24歳の若者ですが、落ち着いた物腰で、浮ついたところがなく、若さの中にも悟りを開いたような奥深さがあります。映画で見る彼も、うまくいってもいかなくてもあまり感情を露わにすることはありません。山は絶壁で高所恐怖症の人が見たらめまいがしそうな高さですが、そこに挑む彼からは緊張感というより、楽しそうな様子さえ感じられます。

「登山スタッフ、撮影チームともにとても仲よくなったので、みんなで困難を乗り越えて登頂することができてとても素晴らしい経験でした。このドキュメンタリーでは僕は編集にも加わって、意見も多く行ったし、重要な選択もしたし、この映画はありのままの僕を捉えていると思います」

でも、命がけの登山に撮影が加わって、大変なことはなかったのでしょうか?

「確かにあれほどの鋭鋒の山を登っているところを撮影するのは大変です。まず密着撮影は無理だから、セロトーレに近づく頃はヘリで空撮、ヘルメットにつけたカメラで撮影をしました。監督には、僕は登る事に集中したいので、撮影スタッフが間に合わなくても待ちませんよと伝えておきましたが、極限状態になると撮影していることは忘れていましたね」

映画を見ればわかりますが、セロトーレの山は先細りしているようなとがり方をしているんですよ。それもボルトを打ち付けることなく山の突起を利用して登るという……集中しないと死が待っているような世界。まさに極限です!この山を征服して、何か得たことはありますか? と聞いたら

「成長ですね。セロトーレのような山を登り切ったことでクライマーとして成長できたと思います。それは経験値が増えたということ。その経験が自分を作ってくれるのです。山で経験した数々の選択は、結果に直結しています。その選択を間違えると大変なことになりますからね。なぜ自分はそのときそういう選択をしたのかを考えること、つきつめることは、日常生活にもつながります。自分を見極めたり、自分の哲学になったりする。山での経験によって、自分がクリーンになってゆくのです」

【5歳のときからクライマー】

ラマ氏は、お父さんがネパール、お母さんはオーストリアの出身で共に山に縁のある両親のもと、オーストリアで生まれ育ちました。

「子供の頃からアクティブでアウトドアが大好きでしたね。僕の両親は、初めてエベレスト無酸素登頂に成功したペーター・ハーベラーさんの援助プロジェクトをやっていて、その縁で、彼にやってみない? と勧められたのがきっかけです。それで現在に至るというわけ。親にやらされたわけではなく、自分から選んだ道です。もちろん僕がクライマーになったことを親は喜んでいます。

でも成功したことを誇りに思っているのではなく、僕が心から愛せるものを見つけたこと、全てを捧げる物を見つけたことに対して喜んでいる。成功は二次的なことですね」

確かに人生において、一生を捧げることが見つかるなんて、これほど幸福なことはありませんからね。

【不可能は真っ白なキャンバスだ!】

難攻不落のセロトーレに登頂したあと、これから目指す世界は何でしょうかと聞いてみました。

「僕はもともと大きなゴールを設定するタイプで、W杯などに出場していた競技者の頃からそうでした。15歳のときに大人の大会で1位になれたのも、不可能と言われるから頑張れたし、不可能と言われるセロトーレにも登れたのだと思います。僕はとにかくチャレンジすることが好き。不可能はクリエイティブなことが描ける真っ白なキャンバスです。

セロトーレも岩の特徴を見ているうちに、僕が登るルートが見えて、最初に見えたヴィジョンをブレることなくやり通せたことが一つの発見でした。不可能に挑戦するということは、何事にも影響されずに自分が切り開いていけるということ。初めてであれば、自分で答えを見つけなければいけない、そういう不可能へのチャレンジが僕は好きだし、それこそクリエイティブだと思うのです」

天才は不可能と聞くとチャレンジせずにはいられないようです。確かに真っ白なキャンバスを自分色に染めるのは、人生をクリエイトしていくような喜びがありそうです。なんだか自分も何か達成できるような気持ちにさせられました。それは世界の山で常に大地の力を得ている人間パワースポットみたいなデビッド・ラマ氏と話したからでしょうか。

その類まれなチャレンジャー精神をぜひ『クライマー パタゴニアの彼方へ』で見て、体感してください。
インタビュー撮影・執筆=斎藤香(c)Pouch 

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『クライマー パタゴニアの彼方へ』
2014年8月30日公開
監督: トーマス・ディルンホーファー
(c) 2013 Red Bull Media House GmbH