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[公開直前☆最新シネマ批評・インタビュー編]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選して、作品の監督インタビューをお届けします。

今回のインタビュー編は、新作『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』のリチャード・カーティス監督です。名前を聞いてもピンとこない人もいると思いますが、恋愛映画オールタイムベストの常連『ラブ・アクチュアリー』の監督と言えばわかるでしょう。もっと言えば『ノッティングヒルの恋人』『ブリジット・ジョーンズの日記』の脚本家でもあるのです。

そのカーティス監督の最新作が『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』。これがもう期待以上の素晴らしい作品! 誰もが人生において通り過ぎる出来事を描いているだけなのですが、それに監督がちょっぴり魔法をかけて、普通の人の人生をキラッキラに輝かせているのです。

【物語】

イギリス南西部のコーンウォールに住む一家の長男ティム(ドーナル・グリーソン)は、シャイで恋愛にオクテなため自己嫌悪気味。そんなティムに父親(ビル・ナイ)は、驚くべき話を聞かせます。それは、一家の男たちには代々タイムトラベル能力があるということ! 暗い場所で拳を握りしめ、戻りたい時間を念じればその場所に戻れると言うのです。ティムがさっそく試してみると、タイムトラベルに成功! その能力で彼は失敗を取り戻すチャンスを得ますが……。

【カーティス監督、引退宣言!】

『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』はカーティス監督の最新作であり、最後の作品でもあります。そう、監督はこの映画を最後に監督業から引退すると語っているのです。数々の素晴らしい映画を作り上げてきたカーティス監督が引退するなんて……。その理由を聞いてみると

「僕が引退をする理由は『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』で描いているよ。年齢とともに(監督は57歳)時間が貴重だと思うようになってね、愛する人たちと一緒に過ごす時間を大切にしたいと思うようになったんだ。映画作りというのは家族と離れ、私生活もなくなるほど没頭しないとできないものなんだ。この映画の撮影中、僕は父親役のビル・ナイと浜辺を歩いたんだが、僕らにはいつも100名のスタッフがついていた。でもね、ビルに言われたんだ“今度は友人として二人で浜辺を歩きたい”って。僕はそれに共感した。それが引退の理由だよ」

仕事に没頭して私生活がなくなる日々から自分を解放しようと思ったのですね。確かに『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』は家族、友達、恋人、夫婦、兄弟などのエピソードがふんだんに登場します。でもそれは劇的なものではありません。主人公のティムが恋をして、その子が好きでたまらなくて、付き合って、結婚して……。ティムの一生は超フツーです。

でもティムの普通の生活を見ていて「ああ、こういうとき嬉しいよね」とか「こういうドキドキわかる~」とか思いを共有できるのです。そして意外と見逃しがちな身近でささやかな幸福に気付かせてくれるのですよ。カーティス監督は、そのささやかな幸福こそが人生最大の喜びだという事に気付き、その幸福をしっかり味わいたいと思ったから引退を決めたのでしょう。

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【カーティス監督の素敵脚本の秘密】

リチャード・カーティス監督が演出した映画、または脚本に参加した映画は日本でも人気があります。その映画作りには決まり事はなく、作品ごとに違うそうです。

「『ラブ・アクチュアリー』のときはヒュー・グラントが語る“愛はいろいろな場所にある”という言葉がきっかけで物語が動き始めたんだ。『ノッティングヒルの恋人』のときは、ジュリア・ロバーツをヒューが夕食に誘うシーンから脚本を書き始めた。そして今回の『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』は、物語の着地点、普通の人生が幸福に満ちたものであるようにという物語になるように作り始めたんだ」

また監督の脚本執筆はかなりの時間を要するそうです。

「例えばキャラクターを考察するときは、30ページくらいセリフだけを書き続ける。同じような作業をプロット、ジョーク、人間関係、冒頭シーン、ラストシーンと書いていくと、一つの映画の脚本に1年はかかるね。でもシルベスター・スタローンは『ロッキー』の脚本を3日で書き上げたらしいから、凄いよ、僕より才能がある(笑)」

どの映画も恋愛において「あるある感」も満載なのがカーティス映画の人気の秘密。やっぱりカフェで恋人たちの会話を聞いたりして、リサーチしているのかと思ったら

「街で会話を拾うことはないな。でも僕の脚本は詳細だよ。役者にはその通りに言ってほしいというところまで徹底して書いているからね。ああ、でも一番おもしろい会話は、親友とパブで飲んで冗談言い合っているときかな。そのときの会話を思い出して脚本に活かすことはあるね(笑)」

【幸福とは愛する人を思いやること】

カーティス監督は幸福についてこう語っています。

「自分たちの愛する人が幸福であることを考えるのが大事だと思う。僕の映画は普通の人がどうしたら幸せになれるかが重要なんだ。僕の周りには普通の人が多く、そういう人に幸せになってもらいたいからね」

ただ、幸福になりたいけど、心配事が多くて幸せ気分に浸れないこともあります。そんな不安な気持ちになったときの為に克服のヒントを監督は語ってくれました。

「あまり悩み過ぎないことがコツかな。大抵の悩みは、結局心配するほどのことじゃなかったな……という事が多いだろう。心配し過ぎないことがハッピーな気持ちになれるコツだよ」

まあ、取り越し苦労だったなあってことありますからね。悩み過ぎて胃痛になる前に「なるようになる!」とドンとかまえることも必要だってことですね。

ちなみにリチャード・カーティス監督、監督業は引退しますが、脚本の仕事は続けるそうなので、まだまだ監督の素敵な物語に触れることはできます! 最新の脚本作品、スティーブン・ダルトリー監督作『Trash』(監督曰く、子供版『ボーン・アルティメイタム』)が完成しています。

今の世の中、成功する方法や金持ちになる方法など、たくさんのHOW TOがありますが、本当の幸福はあなたのすぐ近くにあるのです。1日に1日、一瞬一瞬を大切にしたい! そう思わせてくれる映画『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』。この映画を見たらきっと「私、けっこう幸せじゃん」と、気づくはずですよ。

インタビュー撮影=菊地晶太(KIKUCHI SHOUTA)
執筆=斎藤 香 (c) Pouch

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『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』
2014年9月27日より渋谷シネマライズほか全国ロードショー
監督:リチャード・カーティス
出演:ドーナル・グリーソン、レイチェル・マクアダムス、ビル・ナイ、トム・ホランダー、マーゴット・ロビー、リンゼイ・ダンカンほか
(C)Universal Pictures

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