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[公開直前☆最新シネマ批評・インタビュー編]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選して、ご紹介します。

今回ピックアップするのは、メキシコ映画『マルタのことづけ』(10月18日公開)です。孤独な女性が病院で知り合ったマルタとその家族との交流を経て、前向きに生きることと同時に愛する人を失う経験をする物語。母が子供に残してくれるものとは? いろいろな考えが巡る感動作です。

【物語】

メキシコのグアダラハラで暮らすクラウディア(ヒメナ・アヤラ)は、病院で中年女性マルタ(リサ・オーウェン)と出会います。彼女の周りはいつも娘や息子が来てにぎやか。一方誰も訪ねて来ないクラウディアは孤独です。退院するときマルタはクラウディアを自宅に誘います。そのときから、クラウディアとマルタのファミリーの付き合いが始まりました。子供を学校に送ったり、病気のマルタの付き添いをしたり、やがてクラウディアはマルタの一家と同居することに……。

【監督の実体験を映画化】

クラウディア・サント=リュス監督は、22歳のときにこの映画に登場する病と闘う女性のマルタに出逢ったそうです。

「彼女が亡くなる2年前でした。そのとき私は自分がどこに属しているのかわからず、とても不幸な時期でした。でもそんな私をマルタは養子のように家族の仲間にしてくれたのです」

マルタは病と闘いながらも家族と生きることを楽しみ、子供たちに伝えたいことを常に発信しています。そして死に向かって生きる中でも絶望せず精一杯人生を楽しみ、母の役割を全うしようとしているのです。そんな彼女と時間を共有するうちに、リュス監督はこう思い直したそうです。

「自分の悩みなんてちっぽけなものだ!」

人は「なんだ大したことないじゃん」とか「なんでウジウジ悩んでいたんだろう」と思った瞬間から、元気を取り戻すことありますよね。監督もそういう気持ちになったのです。そして彼女との時間は一緒に住んだ家も含めて、リュス監督の中ではファンタジーとして生きていると言います。

「マルタとその家族と過ごした時間は美化されていると思います。映画に出てくる家のソファーは、マルタの家の実際のソファーより豪華になっているかもしれません。でも私はこのように記憶しているのです」

リュス監督のなかで、マルタと過ごした時間は宝石のように美しくキラキラした時間であり、その時間を映画として残したのです。出会いが絆を生んで、それが映画として残るなんて、本当に夢物語みたいです。

【きれいごとはナシ! 家族の本音満載】

母の死を感じながらも、自分らしく生きようとする子供たちも個性的で可愛いです。そして何よりきれいごとを言わないところがいいですね。こういう病気を扱う映画は、病人中心に世界がまわりがち。家族が看病するのは当たり前で文句なんて言えない雰囲気がありますが、この映画の子供たちは仕事や勉強や遊びもしたいので本音がポンポン飛び出します。姉妹で誰が母の付き添いをするか……と年中モメているのですよ。

でもそれには理由もあり、「ママが死ぬのを見たくない」と。具合が悪くなり、青い顔をしたマルタを見るのが辛いという、その気持ちわかりますよね。自分を生んで育ててくれた母の死がカウントダウンを迎えているのですから、そりゃしんどいでしょう。

【マルタの実の娘が好演!】

子供たちは素晴らしい演技を見せていますが、中でも次女を演じたウェンディ・グレンはマルタの本当の娘です。リュス監督は

「ウェンディをまたあの状況にさらすのは怖かったけど、彼女は見事に演じ切りました。出来上がった映画を見た彼女は“DVDを再生すれば、何度でも母に会える! なんて幸運なの!”と言ってくれました」

とのこと。この映画で描かれることは、骨格は現実ですが、エピソードすべてが現実ではありません。それでも家族は大喜び。監督は自分の思い出を映画にすることで、モデルとなった家族も幸福へと導いたのです。これって何よりもマルタへの恩返しになったのではないでしょうか。

『マルタのことづけ』は、家族と永遠の別れをしなければならないときのことを考えたり、また女性なら、自分が母親になったとき子供たちに何を伝えたいだろう……なんてことを考えたりするかもしれません。そしてお母さんに会いたくなってしまう映画とも言えそうです。

執筆=斎藤 香 (c)Pouch
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『マルタのことづけ』
2014年10月18日より、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
監督:クラウディア・サント=リュス
出演:ヒメナ・アヤラ、リサ・オーウェン、ソニア・フランコ、ウェンディ・ギジェン、アンドレア・バエサ、アレハンドロ・ラミレス=ムニョスほか