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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、森三中の大島美幸さん初主演映画『福福荘の福ちゃん』(2014年11月8日公開)です。初主演でまさかの男役(それもオッサン)、そして第18回ファンタジア国際映画祭の最優秀女優賞を受賞するという快挙! これはすごそう! と、期待を胸に映画を拝見しましたところ、大島さん良かった! 女性である大島美幸がオッサン役を演じたことで、この映画は爽やかで寓話的な映画になったのです。

【物語】

福田辰男(大島美幸)ニックネームは福ちゃん。福福荘に住む塗装工の福ちゃんは、昼間は仕事、夜は仲間と、休日は凧あげ。女っ気はなく、知人が女性を紹介してもどう付き合っていいのかわからない様子。ある日、中学時代の初恋の人・千穂(水川あさみ)と再会した福ちゃん。実は彼女との間に起こった出来事がきっかけで福ちゃんは女性苦手になっていたのです。しかし、千穂に謝られ、彼女の写真のモデルになるうちに、福ちゃんの中で秘めた想いが甦り……。

【大島美幸をキャスティングした理由】

大島美幸がオッサン役? コントならまだしも映画でそれが成立するのだろうか? と思っていたのですが、大島美幸らしさを残しながらも、彼女んは新たに福ちゃんというキャラクターをきちんと作り上げていました。

「テレビで大島さんを見て、この人を肉体労働者のオッサンにして映画を撮りたい!と思ったのがきっかけです。それまで福ちゃんはもっとガサツなキャラクターでしたが、大島さんが演じてほしいと思うようになって、だんだん繊細なキャラクターに変化していったのです。女が男を演じることに理由などなく、福ちゃんの役には大島さんがいい!と、ただそれだけです。彼女に断られていたら、この企画は終っていましたね」

藤田監督がゾッコンの大島さんは、丸坊主にして8キロ増量して臨んだそうですが、その直前に「24時間テレビ」のマラソンランナーをするために減量したばかり。減量したあとすぐ増量という、最初から過酷な役作りだったのです。でもそこは数々の体当たり企画で鍛え上げた森三中の大島美幸。しっかり体を作ってクランクイン。

本当のオッサンが福ちゃんを演じたら、ちょっとリアル過ぎたかもしれないところ、大島さんが演じたことで3ミリくらい宙に浮いたファンタジー的な世界を感じさせ、逆にスっと物語に入っていけるのです。大島美幸効果、おそるべし!

【初恋が甦るラブストーリー】

『福福荘の福ちゃん』は女が苦手な福ちゃんが、トラウマのきっかけだった千穂と和解して新たな関係を築けるか否か……が物語の核になっています。彼女の方は友達だと思っているけど、福ちゃんは……。現実の恋でもありがちなエピソードだけにちょっと切ない。男性の方がロマンチストだと言いますが、この映画はまさにそう。福ちゃんは純粋で一途です。そしてとても思いやりのある良い人。だからこそ傷ついてほしくないけど、千穂は無邪気で素直ゆえに、その行動が福ちゃんに対して残酷に見える瞬間があるのです。無意識の女の怖さが千穂の行動に現れていて、そこはけっこうリアルですね。

【海外でウケる要素とは?】

第18回ファンタジア映画祭では大島さんが女優賞を受賞しましたが、それ以外にも数多くの海外の映画祭に出品されている『福福荘の福ちゃん』。なぜこの塗装工のオッチャンの初恋物語が海外でウケるのか。プロデューサーのひとりに名を連ねているアダム・トレルはこう語っています。

「藤田監督のユーモアが海外ウケする理由としては、藤田監督がモンティ・パイソンなど古い洋画のファンであるからかもしれません。あとメロドラマとコメディをミックスさせる力があるのです。この映画は温かい気持ちにさせてくれますが、福ちゃんは純粋でありながら複雑な感情を抱えている男です。大島さんの演技が福ちゃんのピュアな魅力を引き出してくれたのです」

記者的には、コメディ要素は若干浮いている感じがしたんですが、笑いのスイッチは人それぞれ。海外で爆笑の渦だったのかも!

この映画に登場する人は、福ちゃん含めて生きることに不器用な人ばかりです。福ちゃんのお見合い相手の女性も千穂も、福ちゃんの塗装業の仲間たちも。でも完璧じゃないからこそ頑張れる、完璧じゃないからこそお互い思いやって生きていけるのかな……と。そんな風にホっとさせてくれる映画であることに間違いはありません。
執筆=斎藤香(c)Pouch

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『福福荘の福ちゃん』
2014年11月8日より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督:藤田容介
出演:大島美幸、水川あさみ、荒川良々、芹澤興人、飯田あさと、平岩紙、黒川芽以ほか
(C)2014「福福荘の福ちゃん」製作委員会