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[公開直前☆最新シネマ批評・インタビュー編]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品の監督とキャストをインタビュー!

今回はドキュメンタリー『谷川さん、詩をひとつ 作ってください。』(11月15日公開)の谷川俊太郎さんと杉本信昭監督にインタビュー。“詩は人々の日常に向き合えるか”と様々な年代の人々の生活と谷川俊太郎の詩を結びつける映画『谷川さん、詩をひとつ 作ってください。』。この映画はこれまで見たこともない世界へと連れてってくれる作品です。さっそく、杉本信昭監督と主演の詩人・谷川俊太郎さんにお話しを聞いてきました。

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【この映画は完成しない?】

谷川俊太郎の詩「言葉」から始まった、映画『谷川さん、詩をひとつ 作ってください。』。この映画は農民、漁民、日雇い労働者、女子高生などが自身の気持ちを語りながら、谷川さんの詩を読みます。詩を映画で表現できるのか……。この映画誕生のきっかけを杉本監督はこう語っています。

「プロデューサーの小松原さんが僕にこの映画の話を持って来たんです。詩を映画化するというのは“映画というのはこういうものだ”という考えを一度崩さないとできないものなのですよ。詩には起承転結はありませんから、1,2ときて次に3が来るかどうかわからない。でもそういう映画をやってみたかったし、谷川さんとだからできたと思いますね」

一方、谷川さんは、この映画は完成しないと思っていたそうです。

「“詩を撮りたい” って、監督が僕のところに来たんですよ。僕はそんなの無理だって言ったけれど、なんかいろいろ撮影して帰っていって……。それから2年くらい音沙汰なかったから、やはりダメだったのだろうなと思っていたら、プロデューサーがカメラマンとスイスにいた僕のところまで来まして。驚きましたね。でもそのとき、この映画はできるかもしれないと思いました」

しかし、詩を映画化するのは難しい。この映画の入り口にあるのは谷川さんの「言葉」という詩なのですが、杉本監督は

「このような素晴らしい詩が生まれる瞬間を撮影できないかと思ったのです。谷川さんが“ハっ”とひらめいて書くのではないかと」
谷川さんはそのとき「できるわけないよ」と言ったそうです。

「現実にはコンピューター開いて、ブラインドタッチなんてできないから、ゆっくりと書いては考えの繰り返しなのですよ」

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【いろいろな人生がつまっている】

映画を見た感想を谷川さんに聞くと「おもしろかった。詩人が出てこないのがいい」と。杉本監督は「出したつもりなんですけどねえ」と苦笑い。『谷川さん、詩をひとつ 作ってください。』は確かに谷川さんがずっと出ているわけではありません。被災地の女子高生、愛妻を亡くした男性、目の不自由なイタコの女性など、いろいろな人が自分に起こったことについて、人生について語っています。それぞれがいろいろな過去を背負って今を生きている。そんな人に谷川さんの詩が重ねられていくのです。谷川さんに、映画の中で印象に残った人を聞くと

「それぞれの人生が印象に残っていますね。女子高生が被災地の廃墟を歩いて、震災前にそこに何があったと語る場面もよかったけど、釜ヶ崎の日雇い労働者の男性が一番印象に残っているかな。美人の奥さんを亡くした人です。彼が最後に短歌を読むのだけど、これが良かった。彼の歴史を感じさせるんですよ」

そして、杉本監督は、この映画の魅力についてこう語っています。

「この映画はライブ感があるんですよ。映画はテーマがあったり、告発すべき内容があったりしてスタートするものが多いけど、この映画はそういう始まりではないから、出来上がったときも完成したという感じはなかったんです。でもこうやって谷川さんと一緒に映画の取材を受けていると、いろんな形でこの映画は受け取られていて、常に変化しているなと。だからまだ映画作りが終わっていない、継続している感じがします。こんな経験は初めてですよ」

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【詩のように感じる映画】

この映画は見る人によって、見える景色が違う映画ともいえるのかもしれません。「まったくわからない」という人もいれば「ホっとする」という人もいるし「泣けた」という人もいるでしょう。それはまるで詩の世界のような……。小説は起承転結があり、物語のうねりを楽しむことができるけど、詩は言葉が紡ぎだす世界を感じるもの。この映画も何を感じたかと問いかけるような映画なのです。すると谷川さんはこんな話をしてくれました。

「作品というのはストックされて古典として残っていくものです。詩も結局ストックされていくのだけれど、詩は小説と違って流れていくところがあるのです。この映画はきちんと完成されていなくて、受け取り手によって変化していく、流れていくところが詩と似ていますね。いろんな人が見て、少しずつ成立していく映画なのですよ」

正直『谷川さん、詩をひとつ 作ってください。』は、見終わったあと「そうかわかった!」と言える映画ではありません。結局何もわからなかったという人もいるでしょう。

「詩なんてしょっちゅうわからないって言われますからね。でも僕は詩に関してはそれでいいと思っています」

と谷川さん。つまり「わかる、わからない」ではなく「好きか、嫌いか」というのが詩とこの映画に共通点なのです。
観客も谷川さんの詩を、映画を通して読んでみる。すると、琴線に触れる何かを得られるかもしれない。また、様々な登場人物の誰かに自分を重ねあわせたり、悲しみや喜びを共有できたりするかもしれない。そんな風にいろんな感じ方ができるドキュメンタリーなのです。
トップ画像・執筆=斎藤香(c)Pouch

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『谷川さん、詩をひとつ 作ってください。』
2014年11月15日より、渋谷ユーロスペースほか全国ロードショー
監督:杉本信昭
出演:谷川俊太郎
(c)2014 MONTAGE inc.