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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするドキュメンタリー映画『千年の一滴 だし しょうゆ』(2015年1月2日公開)は、「だし」と「しょうゆ」の深遠な世界を追いかけたドキュメンタリーです。ユネスコ無形文化遺産に登録された和食ですが、その和食を支えているのが「だし」と「しょうゆ」。

普段、当たり前のように口にしている「だし」と「しょうゆ」ですが、『千年の一滴 だし しょうゆ』を見ると、これらが日本の誇りであることがよくわかります。ちなみにグルメ映画ではありません。これは「だし」と「しょうゆ」の生命を描いた映画なのです。

【物語】

第一章:「だし」
知床半島で昆布漁をする90才の藤本ユリさんは浜に打ち上げられた昆布を拾う漁を続けています。また真夏の昆布漁をする三浦さん一家は、子供たちも昆布漁を手伝い、だし昆布の誕生に一役買っています。昆布に加えて「だし」にはカツオ、干しシイタケがあります。伝統的な鰹節職人の仕事、シイタケの原始的な栽培法、そして「だし」の深い魅力、和食に欠かせない理由などが「だし」にかかわる様々な人の仕事で語られていきます。

第二章:「しょうゆ」
創業130年の醤油屋の仕込み。大豆に種麹(アスペルギルス・オリゼというカビの胞子)を捲いて、それが麹になります。この麹に塩水を混ぜて、1年発酵させると「しょうゆ」になるのです。この作業には季節が大きく関係していたり、「オリゼ」の研究がされていたり、種麹誕生の秘密など「しょうゆ」の物語は、実に800年前まで遡るのです。

【「だし」の世界】

和食に「だし」「しょうゆ」がかかせないことは誰もがわかっているけれど、私たちはそれを当たり前のように使用して料理を作り、食べています。でもその「だし」と「しょうゆ」がどんな工程でできているのか、どんな歴史を持っているのか知らない人が多いでしょう。『千年の一滴 だし しょうゆ』は、その「だし」と「しょうゆ」のなりたちを描いています。

「だし」の昆布漁がいかに自然とのかかわりで作り上げられているか、鰹節が出来上がるまでの丹念なプロセス、シイタケの栽培など、どのシーンも目を見張り、興味深く、芸術品のような輝きを放っています。特に、鰹節の美しさ。いま鰹節を自宅で削る人はあまりいないでしょう。でも昔は各家庭で鰹節を削っていたのです。鰹節を割ったときに現れるカツオの赤身は、まるでルビーのようです。

【「しょうゆ」の世界】

「しょうゆ」の誕生も感動的です。カビにこのような力があったとは。カビのおかげで「しょうゆ」は生まれ、私たちの食生活を支えてくれているのです。その特別なカビ「オリザ」は、日本にしかないカビであり、それは日本が作りだしたものなのです。大豆に「オリザ」を振りかけるとき、職人さんは「枯れ木に花を咲かせましょう」と声をかけながら捲きます。それは「しょうゆ」作りのスタートの合図。そこから約1年以上かけて、しょうゆが育っていく。「しょうゆ」はまるで生き物のようです。

【私たちは自然の恵みのおかげで生きている】

「だし」「しょうゆ」の歴史を継承していく職人さんたち。自分の仕事に誇りを持ち、一ミリの迷いもなく仕事に邁進する姿は、尊敬に値します。それだけに今、この映画に登場するような「だし」「しょうゆ」の小さな工房が次々となくなっているのは悲しい。

また『千年の一滴 だし しょうゆ』は映像も美しく、「だし」と「しょうゆ」が自然との繋がりで存在していることがよくわかります。テレンス・マリック監督の映画を見ているようでしたよ。

この映画を見ると、私たちは自然に生かされているのだとしみじみ感じ、「だし」と「しょうゆ」を、これからは大切に使い、きちんと味わいたいと思うはずです。

執筆=斎藤香(C)Pouch
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『千年の一滴 だし しょうゆ』
2015年1月2日より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
監督:柴田昌平
語り:木村多江「だし」、奥貫薫「しょうゆ」

(C)プロダクション・エイシア/NHK