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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、ドイツ・フランス合作映画『ふたつの名前を持つ少年』(2015年8月15日公開)です。この映画の原作は児童文学「走れ、走って逃げろ」(ウーリー・オルレブ著)。でもこれはフィクションではなく実話に基づいた原作の映画化なのです。第二次世界大戦中、ユダヤ人であったためにナチに狙われた8歳の少年が、ポーランド人と偽り、別名を使ってひたすら逃げて生き延びた物語です。

【物語】

スルリック(アンジェイ・トカチ&カミル・トカチ:二人一役)は、家族と離れてひとりでナチから逃げる生活を送っています。なぜなら彼はユダヤ人一家の子供だから。父はスルリックに「名前を偽り、逃げるんだ」と伝えて彼を送り出したのです。

ユダヤ人強制居住区から逃げ出したスルリックは、ユレク・スタニャクという名前のポーランド人と名乗ります。ひとりぼっちの彼に優しくしてくれる人はたくさんいました。一緒に生活してくれたり、守ってくれたり、友達もできました。でもユダヤ人とバレて通報されたり、見つかって追いかけられたりすることも。ナチの影は彼を追い続けます。そのたびに親切な人にサヨナラをしなくてはならないスルリックでしたが……。

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【ピンチを軽やかに駆け抜ける主人公】

戦時中が舞台で、ナチに追われる少年の物語なんて聞くと、どんなに暗く辛い映画だろうと想像してしまいますが、見て驚くのは、戦争の苦しみ、ユダヤ人への差別を描きながらも、主人公の少年の魅力で、この映画が実に軽やかに仕上がっているところです。スルリックは生き抜くために自分を偽り続け、人の親切を頼りにします。

これは下手をしたらとてもずる賢い主人公に見えてしまいますが、ダンカート監督の演出とトカチ少年の好演のおかげで、愛すべきキャラクターになっているのです。戦時中ゆえにしんどいことはたくさんありますが、彼が生きることを諦めない姿を見ていると「頑張れ、行け行け!」と応援気分に。そして、誰にでも愛されるスルリックにあやかりたいとさえ思ったりして。

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【二人一役の理由は……】

『ふたつの名前を持つ少年』は、なんと二人の少年が主人公のスルリックを演じています。実はスルリックを演じている子役は双子なのです。なぜ双子をキャスティングしたのかをペペ・ダンガート監督はこう語っています。

「1年以上かけて700人以上の子供をオーディションしました。ワルシャワでのオーディションで主演のアンジェイ・トカチと出会い、主役に抜擢しました。そのとき彼が “自分は双子だ” と打ち明けてくれたのです。リハに双子のカミルを連れてきてもらったのですが、彼も実に才能豊か。

しかし、二人の性格は正反対でした。アンジェイは外交的で強気で泣き虫ではありません。でもカミルは内向的でいつでも涙を流すことができる繊細な子なのです。そこで私は二人を使い分けることに。そうすることで幅広い感情を表現することができたのです」

なるほど! 激動の時代を生きたスルリックはたくましい一面がありながら、まだまだ子供で精神的にも肉体的にも脆いところがあり、常に揺れていますからね。

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「それに子供の撮影は、1日5時間以上は許されません。でも双子を主役にしたことで、私はその倍の10時間の撮影が可能になったのです」

【主人公のモデルとなった人物への疑問】

ダンカート監督は、主人公スルリックのモデルとなった人物、ヨラム・フリードマンに会ったとき、映画化するにあたって彼にある疑問をぶつけてみたそうです。

「あなたを苦しめたドイツの映画監督が、あなたの体験を映画にすることになったが、どう思うかと聞いたのです。そしたら “我々に危害を加えた国の人々が、その相手の映画を撮ることになった事実に満足感を覚えるよ” と言ったのです」

自分たちを理解しようとせず、邪魔者扱いしていた人々が距離を縮めてきた、それも友好的に。彼がそれを満足と言った理由は、過去の過ちを知ろうとするドイツに対する許しなのか、それとも苦しめてきた相手が頭を下げてきたことに対する満足感なのか、それはわかりません。

いずれにせよ、ユダヤ人迫害は忘れてはいけない事実だけれど、今の時代を生きる人が過去の重荷を背負うことはないというのが主人公のモデルとなった彼の考えのようです。

「常に前を向いている人なのだな~」としみじみ。だからこそ彼は生き延びられたのですね。

ぜひ『ふたつの名前を持つ少年』を見て、スルリックが逃げて逃げて逃げまくる姿を母のような気持ちで見守ってください。

執筆=斎藤香(C)Pouch

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『ふたつの名前を持つ少年』
2015年8月15日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
監督:ペペ・ダンカート
出演:アンジェイ・トカチ、カミル・トカチほか
(C)2013 Bittersuess Pictures

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