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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、先に発表された2015年度アカデミー賞で最優秀助演女優賞(アリシア・ヴィキャンデル)を受賞した映画『リリーのすべて』(2016年3月18日公開)です。

世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベの実話をベースにした、デビッド・エバーショフの小説を映画化。主人公のリリー(アイナー)を演じるのは、昨年『博士と彼女のセオリー』でホーキング博士を演じてアカデミー賞主演男優賞を受賞したエディ・レッドメイン。リリーを支える妻を演じるのは、本作の熱演でアカデミー賞助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデル。監督は『英国王のスピーチ』でアカデミー賞監督賞を受賞したトム・フーパーです。

では映画『リリーのすべて』の魅力、いってみましょう!

【物語】

1928年、デンマーク。風景画家のアイナー(エディ・レッドメイン)は、肖像画家の妻ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)と絵を描きながら仲睦まじく暮らしています。ある日、ゲルダのモデルが不在のため、彼女はアイナーにストッキングと女性の靴を履かせて、絵を描きます。そのとき、彼の中で女性が目覚めてゆくのです。

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やがてアイナーは女性の下着を身に着けるように。そんな夫の姿を見ても、ゲルダは芸術家の遊びだと思い込み、彼に女装をさせて「リリー」という名でパーティへ行きます。
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しかし、そこでヘンリク(ベン・ウィショー)に口説かれてときめくリリー。ゲルダは夫の女装は遊びではないことに気付きますが、アイナー自身も自分の性に迷い、苦悩していくのです……。

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【自分の中で性別が変化していく苦しみ】

性別適合手術について、今では誰もが知っていることですが、手術を受けることを理解してもらえず、苦しみを味わうことは現代でも多いようです。

リリーの時代は1920年代。おそらく周囲の理解以前に、本人がかなり混乱したでしょう。彼が「自分はどうかしてしまったのではないか」と悩むのも理解できます。

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でも ”本来女性なのに男性として生まれてしまった” ということがわかれば、本人は腑に落ちるわけですよ、そういうこともあるのかと。とはいえ、性別適合手術を受けることは大きな決断、命がけで女性になろうとするわけですから、リリーは苦悩の連続です。

そんな彼を支えたのは妻のゲルダ。彼女も夫と同じように苦しんでいます。夫が女性として生きたいと言うのですから。愛する夫が女になってしまう……これは辛いでしょう。それでもアイナー(リリー)を愛するがゆえに、彼の側に寄り添って、夫の決断を受け入れるのです。後半の彼女の一途な献身は、泣けて泣けて仕方ありません!

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【リリー役は『レ・ミゼラブル』撮影中に決まった!】

リリーを演じたエディ・レッドメインは、トム・フーパー監督作『レ・ミゼラブル』にも出演しており(マリウス役)、その撮影中に、監督はエディにリリー役を打診したそうです。

「エディとは10年来の付き合いなんだ。テレビ映画「エリザベス1世 ~愛と陰謀の王宮~」(2005年に放送)で一緒に仕事をして、素晴らしい役者だと感動してね。『レ・ミゼラブル』の撮影中に脚本を渡した。エディは翌日に出演OKしてくれたよ」

そしてエディは、脚本をすぐ読んで、この物語に大感動。

「これは唯一無二のラブストーリーだと思って、監督に “いつからクランクインなの?” とはりきって聞いたら “まあ、落ち着け!” と言われました(笑)。それから数年待って撮影に入りましたね」

撮影では、トランスジェンダーに対する自分の無知さを知ったと語るエディ。

「リリーとして初めてセットを歩いたとき、みんなの視線を感じて、トランスジェンダーの人に注がれる視線がどんなものか少しわかった気がしました。僕は無知で、トランスジェンダーとセクシャリティー、両方の不確かさについて理解していなかったから、毎日が勉強でしたね」

男として生きてきたのに、ある日突然、自分の中の女性を感じるシーン、男性に誘惑されて恥ずかしそうに身を縮めるシーンなど、少しずつしぐさが女らしくなっていく。繊細な演技はさすがエディ。オスカー俳優です。
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一方、女性の共感度が高いゲルダを演じるアリシア。リリーは女になることで頭がいっぱいで、彼女の一途な愛情を受けていながら、返してあげることはできなくなってゆく。ゲルダが悲しみにくれながらも懸命に尽くす姿は、もうけなげで切なくて。アカデミー賞助演女優賞受賞は納得ですよ。

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衝撃的な物語ですが、映像、衣裳ともに美しい愛の物語『リリーのすべて』。エディが語るようにまさに唯一無二のラブストーリー。ぜひスクリーンで堪能してください。

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執筆=斎藤 香(C)Pouch
『リリーのすべて』
(2016年3月18日より、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー)
監督:トム・フーパー
出演:エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィカンデル、ベン・ウィショー、アンバー・ハードほか
(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

▼予告編『リリーのすべて』

▼おまけ:来日時の様子
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▼エディとトム・フーパー監督
エディと監督舞台挨拶
▼妻のハンナ・バグショーさんと
エディと奥さん