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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、あの名作『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』のジョン・カーニー監督の新作『シング・ストリート 未来へのうた』(2016年7月6日公開)です。

バンド少年たちの青春を描いたユーモアと音楽と感動に包まれた本作は、80年代ロック&ポップスが満載で涙出る~! では、物語からいってみましょう!

【物語】

80年代、不況のダブリン。コナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は、父が失業したために荒れた公立学校に転校させられ、いじめにあいます。

家では両親がケンカばかりし、心のよりどころは音楽好きの兄(ジャック・レイナー)とMTVを見る時だけ。つまらない毎日を送る彼だったけど、自称モデルのラフィーナ(ルーシー・ボーイントン)という大人びた女子に出会ったときから人生が変わります。

彼女の気を引きたくて「僕のバンドのPVに出ない?」と声をかけると、なんと彼女の返事は「YES」。そこでコナーはあわててバンドを組むことに。ウソから始まったバンド結成だけど、どんどん本気度が増して来るのです。
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【80年代カルチャーとファッションに泣き笑い】

80年代に青春を送った人ならば、懐かしい~! と一気にタイムスリップするでしょう。デュラン・デュラン、A-ha、THE CURE、ジョー・ジャクソンなど、あの時代の名曲が流れ、登場人物が彼らのことを語るたびに、あんなこと、こんなこと思い出してキュンキュンしたりして。また、その時代は赤ちゃんだった、生まれていなかったという人でも、この映画で流れる曲の中には「聞いたことある」って歌もあるはずです。あの曲の時代はこんな風だったのね~と、80年代カルチャーを学べるっていう。

それにしても、コナーが恋するラフィーナの盛り上がったヘアとドギツイメークを見ると、バブリーなマハラジャ時代が思い出されます。コナーのバンドのファッションも野暮ったさの塊ですが、あのときは流行っていたんですよ。今見ると懐かしさとおかしさがミックスされて……そこがまたいいんですねえ。

そう、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」を見て、80年代アイドルのエピソードに熱狂したのと同じ効果がこの映画にはあるのです。

【カーニー監督の青春がつまった宝石のような映画】

ジョン・カーニー監督は常に音楽に関わりのある映画をリリースしてきましたが、今度は自分が体験した世界を描く必要があったと語ります。

「自分自身を反映した作品を作りたかった。ただの音楽映画にしたくなかったんだ」

カーニー監督はこの映画で、自分の過去と向き合うことになるのです。

プロデューサーのアンソニー・ブレグマンはこう付け加えました。

「ジョンは、父が失業して資金繰りが苦しくなったせいで、洗練された教育の場から、荒っぽい世界に放り込まれたんだ。この映画はまさにジョンの子供時代の体験なんだよ」

主人公が学校になじめなくて袋叩きにされたことも、女の子の気を引くためにバンドを組んだこともほぼ実話。

確かにいじめは描かれていますが、この映画にとってそれは重要ではなく、コナーが音楽を味方につけて、あまりよろしくない環境を鮮やかに乗り越えていくプロセスが良いのです。イケてない毎日でも、好きな音楽やアイドル、スターを見ていると幸福度が上がることってあるじゃないですか。コナーもそうです。くやしい毎日だけど、デュラン・デュランを見れば、テンションがグンとアップ! 暗黒の青春にも抜け道はあるのです。

これは何にでも言えること。ふさぎ込んでいては未来は開けない、好きなことにまい進していく、とにかく歩みを進めていけば、扉は開かれるのではないかと。

イギリスのバンドに憧れ、孤軍奮闘していたコナーのバンドはどうなる? コナーとラフィーナの恋は? 若さゆえの暴走気味の行動、そのなにもかもがキラキラと輝き、不況や家族崩壊があっても、彼らは自分の不幸を他者のせいにせず、気付いたら自立の道を歩み出していた、という物語。

『シング・ストリート 未来へのうた』、見たら絶対に元気をもらえる青春音楽映画の傑作です!

執筆=斎藤 香(c)Pouch

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『シング・ストリート 未来へのうた』
(2016年7月9日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー)
監督:ジョン・カーニー
出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー・ボーイントン、マリア・ドイル・ケネディ、エイダン・ギレン、ジャック・レイナーほか
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▼『シング・ストリート 未来へのうた』予告編