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[公開直前☆最新シネマ批評・インタビュー編]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品の監督を直撃インタビューします。

今回直撃インタビューしてきたのは『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』(2017年1月7日公開)のラース・クラウメ監督です。最近多いナチ関連の社会派映画でありますが、この映画は女性にオススメ。なぜなら映像がとても綺麗でヴィジュアルのセンスがとても素敵なんですよ。社会派映画でこれは珍しい。

この作品を監督したのは、ラース・クラウメ監督、40代のドイツのイケメン監督です。では、物語からいってみましょう!

【物語】

1950年代後半のドイツ、フランクフルト。ナチス戦犯を追いかける検事長フリッツ・バウアー(ブルクハルト・クラウスナー)のもとに、ナチス親衛隊中佐のアイヒマンの情報が入ります。
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何が何でもアイヒマンをドイツで裁きたいバウアーは、国家反逆罪も覚悟の上で、モサド(イスラエル諜報特務庁)にアイヒマンの情報を提供。しかし、アイヒマンを追い駆ける彼は、ナチの残党から妨害にあい、孤立無援の闘いを余儀なくされるのです。
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【個人の力で世界を変えた! バウアーすごい男説】

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近年はアイヒマンをクローズアップした映画が多いのですが、ラース・クラウメ監督が、なぜフリッツ・バウアーという男をクローズアップしたかというと、彼の人生には、今を生きる人の背中を押してくれるような、大きな意味があるそうなのです。

クラウメ監督「世界中に目を向けてみると、とてもさまざまな問題が各国で起こっているでしょう。何とかしなくてはと思っても、個人の力で何ができるのかと思う人は多いと思います。自分が動いたことで、経済システムを傷つけてしまうかもしれないとか考えてしまうでしょう。

しかし、バウアーは個人でそれを成し遂げたのです。彼のやったことは殺人者を捉えるというシンプルなものですが、その人物を捉えることは世界を変えることでもあったのです。彼は個人でそれを成し遂げた。個人の力でも世界を変えることができるということを本作で描きたいと思ったのです」

――映画でもバウアーの執念をヒシヒシ感じました。でも個人の力といっても彼自身に権力もあったのではないかとも思ったのですが。

クラウメ監督「彼自身は実に弱い一面を持った個人ですよ。50年代の後半~60年代初頭のドイツは、まだ旧ナチが自分のポジションを維持したまま生活していたのです。そんな中で、バウアーはユダヤ人であり、同性愛者であり、社会主義者だったんです。これらは当時のドイツで禁じられていたことですよ。

バウアーはまさに三重苦のアウトサイダー。個人で何かをしようとするとき、お金が足りない、協力者がいない、体力に自信がないなどネガティブな要素は人それぞれあるかもしれない。でもその10倍の苦をバウアーは背負っていました。それでも彼は執念で成し遂げた。それは今を生きる人たちに、何かを始めるインスピレーションを与えるのではないかと思ったのです」

【靴下までこだわりあり!バウアーけっこうオシャレ説】

――なるほど。自ら行動を起こすことには勇気がいりますが、あらゆる悪条件を背負っても闘い抜いたバウアーには学ぶことが多いですね。

クラウメ監督「ドイツの民主化に関しても、誰かが立ち上がったというより、連合軍が西ドイツに民主主義国家になるように働きかけたので、そうなったのです。体制が変わったので、人々はそれにならったわけです。言われたからそうしただけで、個人が成熟した時代ではないのです。でも何かに従うだけでなく、自分がこうしたいから実現する、それをバウアーは体現していると言えるでしょう」

――この映画は社会派映画でもありますが、映像も美しく、バウアーはパっと見は髪がモサモサの中年男ですが、実はスーツもお洒落だし、執務室のインテリアも素敵でセンスのいい人だったんだなあと感じました。

クラウメ監督「僕は映像作家として、毎回、映像には変化を与えていきたいと思っています。撮影監督とは、10年来一緒に仕事してきたから、いつもいろいろ試していますが、今回はクラシック&シンプルを心がけました。過剰なカメラワークは必要がない、カメラは目撃者というか、バウアーの観察者という視点で撮影しましたね。

とにかく50年代~60年代のドイツの雰囲気を出していきたいと心掛けました。執務室については、実際にバウアーが使用していた執務室を忠実に再現しています。彼は美術にも興味があったと思いますよ」

――バウアーはいつも黒いスーツで、靴下にちょっと凝っているところに「お!」と思いました。

クラウメ監督「バウアーのファッションについては“ちょっとお洒落にこだわりがある男”という感じで、衣裳デザイナーと相談して決めました。50年代の後半のドイツはファッションがポイントだったので、彼もそれなりに興味があったんじゃないかと。靴下にこだわりを持たせて、彼にもそういう一面があると言うところを見せました。映画にはユーモアも必要ですからね(笑)」

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社会派映画は敷居が高いと思いがちですが、この映画は映像も美しくて、センスの良い作品です。内容もナチの残党を裁判にかけられるか否かというサスペンス色が濃く、気難しい映画ではありません。「この手の映画を見たことない」という女子にとって、よい入口になると思いますよ、オススメ!

取材・執筆=斎藤 香 (c)Pouch

『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』
(2016年1月7日より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー)
監督:ラース・クラウメ
出演:ブルクハルト・クラウスナー、ロナルト・ツェアフェルト、リリト・シュタンゲンベルク、セバスチャン・ブロムベルグ ほか
(c) 2015 zero one film / TERZ Film
(c) Lena Kiessler(監督のアップ画像)

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▼映画『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』予告篇