【公開中☆最新シネマ批評】
映画ライター斎藤香が最新映画のなかから、公開中の作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、嵐の大野智主演映画『忍びの国』(2017年7月1日公開)です。「のぼうの城」などで知られる和田竜の同名小説が原作、「予告犯」「殿、利息でござる!」の中村義洋監督により映画化されました。

大野くんの時代劇ってちょっと珍しいですよね。バラエティで見る大野くんはポワンとしていますが、踊りだすとキレキレ! この映画でもそんな魅力を炸裂させています。できる男なんですねえ。というわけで、ではまず、物語からいってみましょう。

【物語】

戦国時代、織田信長は、伊勢に次男の信雄(知念侑李)と大膳(伊勢谷友介)、左京亮(マキタスポーツ)をおくり、勢力を拡大させますが、伊賀だけは攻めきれずにいました。

伊賀は忍者の国で、その中でも凄腕忍者と呼ばれていたのが無門(大野智)。でも普段は怠け者で、惚れた女、お国(石原さとみ)の尻に敷かれるダメ男でもありました。

そんな伊賀に裏切り者が現れました。平兵衛(鈴木亮平)は、忍者の家系でありながら、命を粗末にし、忍者同士の争いで家族が殺されても涙も流さないゲスな忍者たちに嫌気がさして、織田側についてしまうのです……。

【大野智、ドンピシャはまり役!】

普段は怠け者で、ゆっくりと歩き、何事もかったるそうな無門ですが、いざ闘いの場にくると、突然目覚めたようにスピーディでキレのある動きを見せて、相手を倒します。これが嵐での大野智にかぶって見えるんですよね。バラエティで見せる無口でポワンとした様子と、歌と踊りの素晴らしさのギャップ。そのギャップがそのまま無門としてスクリーンに映し出されている感じです。

前半はどちらかといえば、実力は小出しにしつつ、お国に怒られてペコペコするなど、ダメンズな印象が強いのですが、後半、伊賀忍者と織田家との闘いが本格化してくると、本来の力を発揮して、そこからはかっこいい大野智が怒涛の攻めを見せてくれます! ニコニコしながらバサバサと敵を倒していく無門の底知れぬ強さにビックリです。

【伊賀忍者はヒーローじゃない】

本作、大野智の魅力は存分に楽しめますが、でも正直、物語はちょっと意外でした。伊賀忍者がかっこよく描かれている作品だと思っていたのですが、全体的に伊賀忍者の大半はゲスな男たちです。

欲望のためには仲間も殺すし、裏切りも平気だし、自分さえよければいいという。「アレ? こんな人たちなの?」という。もともと雇用主とは金銭による取引のみで、忠誠を誓う気持ちはない様子。「金、金、金」で、その中に無門は存在するのです。正義感のある平兵衛と比べて、無門は常に我関せずなので、見ている方としては、この主人公に共感していいのか悪いのかと、少々どっちつかずな気持ちになりました。

しかし、最後になって彼の生い立ちが語られると「そうだったのか」と納得も。彼の中に正義や人への信頼があるとは言い難いけど、愛する人を守りたいという情は確実にあったからです。

【いちばん残念だったのは……】

一方、残念だったのは無門とお国のカップル。情けない無門に説教するお国、常に言い負かされる無門が可笑しい……となるはずなんですが、笑えない……。なぜなら、お国がなぜあのような態度なのか、どうして無門についてきたのか、二人の出会いは描かれますが、深くは描いていないので、よくわからないのです。

ボケツッコミの笑いを狙ったのかもしれないけど、そこには至らなかったかも。とはいえ、男優陣は無門以外の役者にも見せ場あり。大膳の伊勢谷友介、平兵衛の鈴木亮平はそれぞれ力強い演技。信雄を演じる知念侑李はルックスが幼すぎる印象ですが、なんとか手柄を立てたい、認められたいという信雄の思いがヒシヒシ感じられ、それが知念くんの懸命の演技に結びついていました。

アイドル映画と思われるかもしれないけど、アクションも派手で、時代劇エンタメとしても大いに楽しめます。意外とデート映画としてもイケますよ。

執筆=斎藤 香 (c) Pouch

『忍びの国』
(2017年TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー)
監督:中村義洋
出演:大野智、石原さとみ、鈴木亮平、知念侑李、マキタスポーツ、平祐奈、満島真之介、でんでん、きたろう、立川談春、國村隼、伊勢谷友介ほか
(C)2017 映画「忍びの国」製作委員会

▼映画『忍びの国』予告編