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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは『セッション』(2015年4月17日公開)です。この映画で鬼教師を演じたJ.K.シモンズは、全米の映画賞助演男優賞をほぼ独占し、アカデミー賞でも最優秀助演男優賞を受賞しました。見れば納得ですよ、シモンズ氏の芝居の刺激的なこと!名門音楽学校の鬼教師と生徒の関係を描いた物語とはいえ、フツーの感動ものじゃない。先生と生徒の一筋縄ではいかない、壮絶なドラマなのです。

【物語】

名門音楽院に入学したニーマン(マイルズ・テラー)は、フレッチャー教授(J.K.シモンズ)のジャズバンドにドラマーとして所属したいと願っていました。しかし、フレッチャーは想像を絶する厳しさでバンドメンバーを恐怖に陥れていました。物を投げ、頬を平手打ちしてリズムを叩きこませるという、まるで独裁者のような振る舞いに、ニーマンは最初こそ震えますが、フレッチャーに認められようと、彼は手から血が出るほどドラムの猛特訓をするのですが……。

【教師と生徒の狂気のバトル】

鬼教師と生徒を描いた物語は世界中にたくさんありますが、この映画はそれらと一線を画しています。というか、こんな教師と生徒の映画は見たことがない。フレッチャーの厳しさは、愛の鞭……なんて生易しいものではないのです。そこには彼が生徒に求めるレベルの高さがありますが、それ以上にフレッチャーは生徒を音の出る楽器としか見ていないのでは?とさえ思います。また喜怒哀楽の感情のうち「怒」だけが過剰に高いような……。

フツーなら「やっていられない」と逃げ出すような仕打ちに立ち向かうニーマンは偉いです。でも彼もまた音楽に異常なまでの情熱を傾けていた人物。だからこそ立ち向かえたのです。でも、ニーマンはフレッチャーに一瞬でも認められると鼻高々になって、周囲を見下すような単純で幼い一面があります。そう、この二人、ちょっと似ているのです。ニーマンとフレッチャーの間で火花が散るのは、二人がエゴとエゴのぶつかり合いをしているからかもしれません。

【なんと監督自身が経験した実話】

『セッション』は、その舞台裏も衝撃的です。この物語はデイミアン・チャゼル監督自身の経験からきたものだからです。高校のジャズバンドでドラマーとして活躍していたチャゼル監督。彼のバンドの指揮者は地元の英雄で、そのバンドを全米ナンバー1のバンドに変えた偉大な人だそうです。でもチャゼル監督は

「いつも怒鳴られるのではないかとビクビクしていた。あまりにイライラして自分のドラムを殴り壊したくらいだった」

そして監督は、高校を卒業してからも恐怖の音楽室のことが忘れられず、悪夢になって甦ることがあると言います。そのトラウマになるほどの経験が彼に映画を作らせたのです。

「あの頃、重要だったのは教師との関係だった。あまりにも緊張に満ちたものだったから、それを映画で掘り下げたいと思ったんだ。生徒を高い領域に追い込むのなら、どこまでやればいいのか。音楽を別な角度から描きたいと思ったんだ」

音楽は美しく、心を癒してくれるものだけれど、その音楽を奏でる音楽家は血のにじむ想いを何年も何十年も重ねているのです。人を感動させるのはそう簡単にできるものではない。この映画が斬新かつ感動的なのは、その厳しさにスポットをあてているからでしょう。

【撮影期間はたった19日間!】

主演のマイルズ・テラーのスケジュールの都合で、本作はたった19日間で撮影したそうです。おまけにテラーはドラムの経験が浅く、監督はヤマハのドラムセットを彼の家に運び、毎日レッスン。フレッチャー級の鬼教師ぶりを発揮したようで「彼をひどい目に合せた」と語っています。

それにしてもたった19日間の撮影でこのクォリティ! その19日間がどれだけ濃密な時間だったかは、この映画をわかります。ラストは映画史に残る9分19秒! ヒリヒリして、心臓がバクバクする圧巻のパフォーマンスに度肝を抜かれます。それは何か……ぜひスクリーンでお楽しみください。

執筆=斎藤 香(C)Pouch
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『セッション』
2015年4月17日より、TOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズ六本木ほか全国ロードショー
監督:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J.K.シモンズ、ポール・ライザー、 メリッサ・ブノワほか