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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかからおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、フランス映画『彼は秘密の女ともだち』(2015年8月8日公開)です。2015年のフランス映画祭でも上映され、人気を博した作品がいよいよ公開されます。監督は、『8人の女たち』などで有名なフランソワ・オゾン。この映画はユーモアも含みながらもヒロインの愛の心理を深くえぐった作品。一筋縄ではいかないフランス映画らしさに溢れた映画なのです。

【物語】

クレール(アナイス・ドゥムースティエ)は大親友ローラが病で亡くなり、意気消沈していました。落ち込む彼女は、ローラと夫とその娘の様子を見るために、ローラの夫ダヴィッド(ロマン・デュリス)宅を訪ねると、そこには女性が。ローラの娘をあやしている見知らぬ女性に驚くクレール。なんとその女性はダヴィッドが女装した姿だったのです。

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【オゾン監督、念願の映画化】

『彼は秘密の女ともだち』はオゾン監督、20年越しの企画でした。

「ルース・レンデルの小説「女ともだち」をベースにしているんだ。だいぶ前から、この原作には着目していて、短編用の脚本も書き上げていたんだけど、資金を集められなかったのと、キャスティングがうまくいかなくて、そのときは企画を断念したんだよ」

オゾン監督が有名になって、やっと実現した『彼女は秘密の女ともだち』。監督は特にダヴィッドの女装癖に興味をそそられたそうです。

「この手の映画で僕が好きな作品は、外的な理由で異性の服装をする人を描いたものだ。『お熱いのがお好き』はマフィアを出し抜くために女装をするし、『トッツィー』は仕事を得るために女優になる男の話だろう。女性が男装をする場合もあるね。状況に迫られて異性の服装をしてなりきる人の物語は、観客が感情移入しやすいんだよ」

しかし、オゾン監督が最初に書いた映画の企画書に対して、プロデューサーはスポンサーが離れてしまうといい顔をしなかったそう。

「プロデューサーに “この映画で目指すことは、本作を見終ったら、男性が化粧品やストッキングを買いに走りたくなることだ” って言ったからさ。僕は、男性にも女性的な楽しみを見出してもらい、ユーモアと優しさを持って自分らしく生きることを理解してほしいと思ったんだ。決して登場人物たちを笑い者にせず、共感できるように」

フランスの個性派監督は、企画の発想もユニーク! 個人的趣味だけでなく、理由があって異性の服装をする人もいるわけです。この映画には、そんな事情を抱える人々への優しい配慮があるのです。

【女装した男への淡い思い】

女装をするダヴィッドの気持ちは比較的わかりやすいのですが、実はいちばん複雑なのがヒロインのクレールです。クレールは女装したダヴィッドにヴィルジニアという名前をつけて、いつも一緒に過ごします。ダヴィッドは女装しているとはいえ男であり、亡き親友の夫なのですが、どんどん惹かれていくのです(しかもクレールは人妻)。クレールが好きなのはダヴィッド? それともヴィルジニア? 彼女は自分自身でも激しく葛藤します。

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クレールは、ヴィルジニアに親友ローラの面影を見ているのではないかと記者は思いました。クレールはローラへの想いをそのままヴィルジニアに重ねているのではないかと。でも、これは見る人によっては違う感想を持つでしょう。オゾン監督の映画ははっきりとした答えを出しません。見る人によって、同じ風景も違って見えるからです。

設定はユニークでヒロインは複雑。でも「こんなことあるかも……」と思わせるところが『彼は秘密の女ともだち』の魅力。見終ったあと、女友だちといろいろ話し合いたくなるでしょう。

執筆=斎藤 香(C)Pouch
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『彼は秘密の女ともだち』
2015年8月8日より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
監督:フランソワ・オゾン
出演:ロマン・デュリス、アナイス・ドゥムースティエ、ラファエル・ペルソナーズ、イジルド・ル・ベスコほか
(C)2014 MANDARIN CINEMA – MARS FILM – FRANCE 2 CINEMA – FOZ

▼『彼は秘密の女ともだち』予告編