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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、ディズニー/ピクサーの最新作『アーロと少年』(2016年3月12日公開)。2015年に全米公開されて絶賛評に包まれた感動作です。

地球に隕石がぶつからず、恐竜が進化した地球という設定の中、言葉を持つ恐竜のアーロと、言葉を持たない野生の少年のスポットの友情を描いています。これが、大人の心にもガツンとヒットし、心が洗われる物語で良いんですよ。

【物語】

恐竜ファミリーのうち、一番臆病で引っ込み思案な恐竜のアーロ。そんな彼を歯がゆく思うパパは、アーロを鍛えようとします。でも嵐の日、パパはアーロをかばって激流の中、命を落としてしまうのです。アーロは悲しみに沈む家族を助けようと必死になりますが、アーロまで川に落ちて流されてしまう……。
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見知らぬ場所にたどり着いたアーロは、その地で人間の少年に出会います。彼は以前、アーロの家族が大切にしていた食糧を盗んでいた少年。最悪な再会でしたが、少年はアーロに食べ物を運んでくれたり、何かと気遣いを見せ、アーロと少年は仲良しになっていきます。そしてアーロは少年にスポットという名前をつけ、二人でアーロの家族の待つ家へと向かうのですが……。

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【弱虫アーロの姿に共感!】

学校や職場で、社交性抜群だったり、要領がよかったり、積極的だったり、そんな人を見て「いいなあ、うらやましいなあ」と思ったり、「何で自分はできないんだろう」と人と比べて落ち込んだりすることないですか。

アーロも同じ。兄姉ができることが自分はできない、失敗ばかり。兄姉は優秀でパパやママに褒められるけど、自分にその言葉はない。差別されているわけじゃないけど、コンプレックスがどんどん大きくなっていくアーロ。

前半はアーロが空回りしては失敗して落ち込んで……というエピソードが綴られ、もう胸イタですよ。「自分、アーロの気持ちわかるんですけど」みたいな。アーロみたいな思いを抱いたことのある人なら、きっと共感するでしょう。

【大自然と対峙するアーロと少年】

川に落ちて流されて、見知らぬ場所でぼっちになってしまうアーロ。臆病ダイナソーですから、そりゃ怖さMAXです。おまけに出会ったのは、自分の家から食べ物を盗んでいた泥棒少年ですから「こんなときに出会うのがお前かよ」って思ったでしょう。

でもこの少年は申し訳ないと思ったのか、アーロを助けてくれるんです。だんだん「悪いヤツじゃないみたい」と思い始め、一緒にいると楽しいと感じ、お互い頼りにするようになるのです。

少年は言葉を持たないので、食べ物をあげたり、共に障害を乗り越えたりという行動で距離を縮めていきます。ここはピーター・ソーン監督の演出力ですね! 大自然は味方になることもあれば、恐怖になることもあるという、自然の驚異も感じさせながら、二人の友情を築いていく演出、巧い。

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ソーン監督はこう語っています。

「私たちは臆病で何もできないアーロを荒野の真っただ中に放り込んで、彼にさまざまな自然の驚異を体験させたんだ。自然そのものが彼の冒険を表している。川が激しく流れているときは、アーロは困難に直面している。でも彼とスポットが心通わせると、川は穏やかになるんだよ」

今まで何もできなくても、パパやママが何とかしてくれた。でも守ってくれる人がいない場所では自分で何とかしなくてはいけない。弱虫アーロの中に立ち向かう勇気が育まれていくのです。

【日本語吹替え版も完璧!】

記者は日本語吹替え版で観たのですが、恐竜アーロを演じた子役の石川樹君、良かったですね。またひとり天才子役現る! 声の出演とはいえ、今後、活躍しそう。寺田心くんも鈴木福くんも、彼の存在は驚異に感じるはずです。

また松重豊さん、八嶋智人さん、片桐はいりさんはアーロが途中で出会うTレックス一家の恐竜の声。この映画のコメディリリーフ的な存在で、にぎやかに盛り上げています。安田成美さんはアーロのママ。やさしさがにじみ出てホンワカした気持ちにさせてくれますよ。

子供時代、大自然の中で思い切り走りまくった日々を思い出し、コンプレックスを受け止めて乗り越えようともがくアーロに感情移入し、野生児スポットの純粋さを微笑ましく思い……。意外と大人でもズンと心に響く『アーロと少年』。大自然の映像も美しく、物語も素晴らしい、さすがディズニー/ピクサー!といえる胸アツになる感動作です。
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執筆=斎藤香(C)Pouch

『アーロと少年』
(2016年3月12日より、TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー)
監督:ピーター・ソーン 
声の出演:レイモンド・オチョア、ジャック・ブライト、サム・エリオット、アンナ・パキンほか
日本語吹替版:安田成美、松重豊、八嶋智人、片桐はいり、石川樹ほか
(C)2016 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

▼「アーロと少年」予告編