【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、レビューをします。

今回ピックアップするのは第71回カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞した是枝裕和監督の最新作『万引き家族』(2018年6月8日公開)です。受賞のニュースが日本全国を駆け巡り、多くのメディアで紹介されていたので、ご存じの人も多いでしょう。
なぜこの作品は受賞したのか? どうして万引き家族なのか? そんな疑問を持ったまま上映がスタートしたのですが、あっという間に世界観に引き込まれ、切なくも素晴らしい作品だったのです。では物語から。

【物語】

街角のスーパーで万引きをしていた父の治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は、その帰り道、ひとりぼっちの少女ゆり(佐々木みゆ)と出会います。寒空の中、心細そうな顔をした彼女を2人は家に連れて帰りました。

オンボロ平屋の家には、治と祥太のほか、母親の初枝(樹木希林)妻の信代(安藤サクラ)信代の妹の亜紀(松岡茉優)が住んでいます。翌朝、信代と初枝はゆりを自宅に送り届けますが、そのとき、ゆりが両親に虐待されていたことを知り、2人はゆりを連れて帰り、6人目の家族としてに迎え入れます。

彼らはにぎやかに楽しく暮らしていました。しかし、ゆりが行方不明であることが報道されてしまうのです……。

【自分の中の“正義感”が揺らぐ作品】

「子供に万引きさせる親」や「おじいちゃんやおばあちゃんが亡くなっているのに、年金欲しさに届け出をしない年金不正受給の家族」などの事件がときどき報道されるのを見たことがありませんか? この映画に登場する家族はまさにそういう軽犯罪を繰り返してきた家族です。

私はこれまで「年金目当てにごまかすなんて!」とか「子供に万引きさせる親、最低!」とか、報道を見るたびに思っていましたが、この映画を見て、そんな正義感がグラグラと揺れました。

本作には、軽犯罪を繰り返す悪い家族と笑顔いっぱいの温かい家族が同居していたからです。「これってどういうこと?」という不思議な気持ちが、私を『万引き家族』の世界にグイグイとひっぱっていきました。

【社会に見捨てられ、必死に生きる“家族”】

ゆりが行方不明であることが報道されてから、この家族の秘密は次々と明らかになって行きます。初枝の過去に亜紀が関係していること、治と信代は二人が過去に起こした犯罪で強く結ばれていること……。でもそれらの秘密を知れば知るほど「この人たちが犯罪に手を染めたのは、こうしないと生きていけなかった。罪の意識など感じていたら生きていけなかったんだ」と思わされます。

「とにかく必死に生きること」が人生で最優先にすべきことで、成功者になろうとか、夢を掴もうとか、そんなこと彼らの脳内に1ミリもありません。ゆりは両親に捨てられたも同然の少女ですが、ゆりだけじゃなく、この家族全員が社会に見捨てられた人たちなのです。

もちろん、だからといって罪を犯していいわけはありません。裁きは受けるべきですが、犯罪者に身を落としていく人は、こうやって社会に見捨てられた人たちもいるかもしれない。見捨てられた人同士が集まって家族になったのが “万引き家族” なのではないでしょうか

【生きることを考えるきっかけをくれる映画】

是枝裕和監督は、家族映画を多く作りだしてきましたが、本作は、多くの人が言うように『誰も知らない』(2004年)に近いです。あの映画も「巣鴨の子供置き去り事件」という実際にあったネグレクトの事件がベースでした。あの母親は最低のことをしましたが、子供たちは母親のことが大好きで、親子が一緒にいるときは笑顔の絶えない家族だったことが描かれていました。

犯罪者の家族にも団欒はあり、普通の幸福な瞬間もある。でも、そんな人として当たり前のことが彼らにとっては特別な時間。そう見えてしまうというのが、なんだか辛いというか切ないというか。本当につかの間だからこそ、凄い輝きを放っているように思えました。

デート映画にするには重いし、楽しい気持ちになれる映画ではないけど、意外といろいろ悩んでいるときに見るのがいいかも。夢があったり、目標があったりするだけでも幸せなこと。自分はもっと必死になれるはずだと思ったり、家族団欒という当たり前の時間が貴重だと思えたり。生きることをちゃんと考えるきっかけをくれる映画です。

執筆=斎藤 香 (c)Pouch

『万引き家族』
(2018年6月8日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、樹木希林ほか
(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro

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