【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは第91回アカデミー賞作品賞受賞作『グリーンブック』(2019年3月1日公開)。黒人天才ピアニストとイタリア系用心棒のロードムービーで実話の映画化です。

「アカデミー賞受賞作だから、良い映画に違いない」とハードルあげて観る人も多いと思いますが、ハードルあげていいですよ! がっつり期待に応えてくれる素晴らしい映画ですから!

ちなみにタイトルの「グリーンブック」とは、1936~1966年まで発行されていた黒人が利用可能な施設を記したガイドブックのこと。では物語から。

【物語】

ナイトクラブの用心棒として働いていたトニー(ヴィゴ・モーテンセン)は、クラブが2ケ月休業する間、天才黒人ピアニストのドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の南部ツアーの用心棒&運転手の仕事を任されます。真面目でインテリな上流階級のドクターと粗野なトニーは水と油。最初はぶつかってばかりでしたが、黒人差別が色濃く残る南部で、差別的な扱いを受け続けても決して屈しないドクターと行動をともにするうちに、トニーは彼を守りたいと思うようになるのです。

【トニーとドクターのキャラが最高!】

この映画の魅力はなんといってもトニーとドクター・シャーリーのキャラクターです。トニーは無学で粗野なイタリア系の男で言葉遣いも態度も悪い。ドクター・シャーリーはホワイトハウスで演奏したこともある音楽界の知的セレブ。とことん正反対の二人なんですよ。

トニーは運転しながらチキン食べたり、タバコを吸ったり、おしゃべりが止まらなかったりするので、そのたびにドクターに「前を見て運転しろ」「タバコを吸うな」「静かにしてくれないか」と怒られる始末。2人だけなのに車内に居心地悪い空気が充満して「どうなるのかしら」と不安になるのですが、南部ツアーでの出来事が2人の心の距離を近づけていくのです。

【黒人でも白人でもないと叫ぶドクター・シャーリー】

とにかく南部でのドクターへの嫌がらせがひどいんです! 白人が集まるバーでボコボコにされたり、着替えるための控室が物置だったり、演奏前に食事をとろうとレストランにいったら「黒人はお断り」と門前払いされたり……。

トニーはその扱いに怒りを感じるのですが、当のドクター決して声を荒げることなく、威厳を持って対応する。でもそんな彼の気持ちがトニーには理解できない。「北部にいればチヤホヤされるのに、なんで差別が強い南部に来るんだろう」と。私もトニーと同じこと思いました。

でもドクターは初めて声を荒げて言うのです。「自分は差別されてきた黒人の気持ちがわからない。でも自分は白人でもない。黒人でも白人でもない自分は何なんだ!」と。富裕層のドクターはずっと居場所がないまま孤独に生きてきたのです。南部のツアーは自分と同じ黒人たちがどのような差別にあってきたのかを知るためだったのかもしれません。

【ユーモアと感動が見事なバランス!】

人種差別の映画と聞くとヘビーな印象があるかもしれませんが、本作はそのような心配はいりません。ユーモアと感動の塩梅がちょうどいいんですよ。

特に手紙のシーンは秀逸! トニーが妻宛に書いた粗野な手紙を見たドクターは「これは何だ?脅迫状か?」との言ったあと、「自分の言う通りに書きなさい」と、口頭で手紙をロマンチックなものへと代筆してあげるんです。トニーとドクターの初めての共同作業で、2人がお互いを認め合っていること、思いやりを持っていることがわかるシーンです。

ちなみに文学的な美しい表現の手紙を受け取ったトニー妻は大喜び! 近所のママ友に手紙を見せて「素敵でしょう」とキャーキャー!小さなシーンでクスっとさせたり、大切なメッセージを放ったり、そのバランスがいいので、気持ちよく笑って感動できるのです。

【監督はハチャメチャコメディの人だった】

本作のピーター・ファレリー監督は、キャメロン・ディアス主演のコメディ映画『メリーに首ったけ』などのコメディが得意な監督。とはいえ、コメディ映画の中でもハンディキャップを背負った人を特別扱いせず、登場人物のひとりとして公平に描いてきました。そういう監督だからこそ、人種差別がテーマにありながらも、ドクター・シャーリーとトニーの旅路を重くなり過ぎず、ユーモラスでとても考えさせられる映画に仕上げることができたのでしょう。

老若男女誰でもウェルカムな作品なので「感動できる良質な映画を観たい」という人はぜひ! デートムービーでもありですよ。

執筆=斎藤 香 (C)Pouch

グリーンブック
(2019年3月1日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ、ディミテル・D・マリノフ、マイク・ハットン、イクバル・テバ、セバスティアン・マニスカルコほか
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