【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは香取慎吾主演映画『凪待ち』(2019年6月28日公開)です。映画『孤狼の血』『彼女がその名を知らない鳥たち』など、見ごたえある人間ドラマを描いてきた白石監督が香取慎吾さんをどう魅せていくのか……。興味シンシンで公開初日に劇場で鑑賞してきました! では物語から。

【物語】

ギャンブルと酒好きの郁男(香取慎吾)は、恋人の亜弓(西田尚美)と彼女の娘の美波(恒松祐里)と、亜弓の実家のある石巻で暮らすことになります。亜弓の母は他界。父の勝男(吉澤健)はひとり暮らしをしており、近所の小野寺(リリー・フランキー)が何かと世話をしていました。ある日、遊びに行ったままの美波が夜遅くまで帰宅しないことを心配した亜弓は、郁男の運転する車で探しにいきますが、道中、大喧嘩になり、郁男は彼女を車から降ろしてしまいます。そして、その夜、亜弓は殺されてしまうのです……。

【クズだけどワルじゃない!】

社会の底辺をはいつくばって生きているような男・郁男を演じる香取慎吾さん。こんな香取さんを始めて見ました。すぐ酒とギャンブルに手を出しちゃうような、どうしよもなくメンタル弱くてクズ! でもなぜか周囲は放っておけないんですよ。それは彼がクズだけどワルじゃないから。その証拠に、亜弓という恋人がいて、その娘にもなつかれて、石巻の人々とも次第になじんでいきます。ただ、そんなささやかな幸福も自らぶち壊しちゃうんです。

【クズを演じる香取慎吾の新境地】

亜弓の死後、ますます酒とギャンブルにハマっていく郁男の姿は壮絶で、怖いくらいでした。競輪で負けても負けてもお金を賭けていき、ヤクザへの借金が膨れ上がり「どうするのよ~」と、見ていて不安になるほど……。正直、郁男が人生を無様に転がり落ちていく姿を見るのは辛かったです。

だって、香取慎吾ですよ! 私はキラキラのアイドルだった時代の香取慎吾を見ているから、もう余計に辛くて「もう、やめて~」と心の中で叫んでしまいました。もはや演じているんだか、香取さん自身がダメになっていくんだか、わからなくなるほどの鬼気迫るオーラ!

「郁男はどこまで堕ちていくの……?」と思いつつ、その一方で、香取さんはすごいチャレンジしたなあとも思いました。汚れ役でもどこか輝きを放っていたのは、やはり本来持っているスターのオーラなのかもしれません。

【人はひとりでは生きていけない】

亜弓をひとりにしてしまったことを後悔し、死の責任の一端は自分にあると思い込んでいる郁男。彼は疑惑の目を向けられたり、乱暴されたり、裏切られたりするけれど、気にかけてくれたり、助けてくれる人も同じくらいいるのです。そこがこの映画の希望。後半、郁男を心配する人たちのやさしさには泣けました。特に亜弓のお父さんには心ガシっとつかまれましたよ。郁男はドン底の経験を経て、やっと人のやさしさに応えることができるようになっていくのです。

けっこうヘビーで見応えありすぎなくらいで、香取慎吾の挑戦する熱い気持ちをすごく感じる作品です。この映画をきっかけに香取慎吾出演の映画が増えるといいな。慎吾ファンは必見ですよ!

執筆=斎藤 香 (C)Pouch

凪待ち
(2019年6月28日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
主演:香取慎吾 恒松祐里 西田尚美 吉澤健 音尾琢真 リリー・フランキー
監督:白石和彌 脚本:加藤正人
配給:キノフィルムズ / PG12
©2018「凪待ち」FILM PARTNERS