【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは福山雅治と石田ゆり子が共演する大人のラブストーリー『マチネの終わりに』(2019年11月1日公開)です。平野啓一郎の同名原作の映画化作品。私は試写で見せていただきましたが、福山さんと石田さんがお似合いでウットリでしたよ~。これぞまさにスター映画の王道ではないかと! では物語から。

【物語】

世界的なクラシックギタリストの蒔野聡史(福山雅治)は、レコード会社の担当者である是永慶子(板谷由夏)の友人でジャーナリストの小峰洋子(石田ゆり子)と出会います。すぐに惹かれ合うものを感じた二人ですが、洋子には婚約者(伊勢谷友介)が……。それでも彼女のことが忘れらない蒔野は、洋子に告白。最初は「もうすぐ結婚するの」と告げた洋子ですが、心は蒔野に傾いていたのです。

【福山と石田の魅力に溢れた美しい恋愛映画】

原作は未読で映画を拝見しました。主演に、福山雅治と石田ゆり子というスターを配し、加えて、パリやニューヨークの雰囲気を存分に感じさせるロケ地をチョイス。その中で二人をスペシャル美しく撮影しているので、スクリーンには隙のない美の世界が展開していき、もうウットリです。

たった三度会ったあなたが、誰よりも深く愛した人だった

というキャッチコピーに「たった3回で?ないわ~」と思ったけれど、蒔野と洋子の初対面のシーンを見たとき、その気持ちはコロリと覆りました。ふたりが確実にひとめぼれで恋に落ちたのがわかるほど、恋愛オーラが伝わってきたからです。「ああ、ここから二人の物語が始まるんだな」というワクワクドキドキ感がもうたまりません!

【大人の恋の難しさと切なさ】

しかし、若い頃なら情熱に任せて、好きな人にガツガツ向かっていけるけど、キャリアを重ねてきた大人は、仕事や人間関係に様々な事情を抱えていますからそうはいかない。蒔野はクラシックギタリストとしてスランプに陥り、洋子は仲間のジャーナリストをテロで亡くす悲劇に見舞われるという状況ゆえに、すぐに恋に飛び込むことができないのです。好きなくせに距離が縮まらないじれったさ、会いたいけど会えない切なさは、同時に大人の恋の難しさも描いていました。

【愛し合う二人を引き裂くすれ違い】

なかなか会えない二人だからこそ、やっと会えたときの喜びは普通のデートの100倍だったでしょう。再会したとき、蒔野は「この日を逃すものか」とばかりに洋子にプロポーズ。彼女に婚約者がいるのを知っているけど、気持ちを抑えることができなかったのです。ここから二人の恋は加速。でも洋子が蒔野の気持ちに応える決心をしたとき、ある人物の嫉妬と嘘が2人の仲を引き裂いてしまうのです。

正直、邪魔した人物に対しては、個人的に「なんてことしてくれるんだ!」と思いましたけど、その嘘を信じてしまったところに会った回数の少なさゆえの弱さを感じました。ふたりは、心のどこかで数回しか会っていないことへの不安があったのではないか。だから、決心が鈍っても、心変わりがあってもおかしくない、仕方がないと思ってしまったのではないだろうかと。ひとめぼれで一気に燃え上がる愛は、一生忘れられない恋愛になると同時に、すごく脆いものでもあるのだなあと思いました。

【何年もかけて相手への思いを積み重ねていく】

2人はそれぞれ、その後にすごい葛藤を繰り返していきます。それは二人を引き裂いた嘘の真相が明らかになることでピークを迎えますが、そんな苦しい時期から、グルリと回って、また前半のような美麗な世界が戻って来るのです! 相手への思いが途切れなかったからこそ起こった奇跡にしみじみ感動……。

福山雅治と石田ゆり子はヴィジュアルも含めて相性がよく、『マチネの終わりに』の世界にピタリとはまっていたし、全編に流れるクラシックギターの音色がとても美しく、物語を盛り上げるのに一役買っていました。最近では珍しい大人のラブストーリー。ふたりの恋の行方に思いきり酔ってください。

執筆=斎藤 香 (c)Pouch

マチネの終わりに
(2019年11月1日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:西谷弘
原作:平野啓一郎「マチネの終わりに」
出演:福山雅治、石田ゆり子、伊勢谷友介、 桜井ユキ、 木南晴夏、 風吹ジュン、板谷由夏 古谷一行
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