【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、ジワジワと人気を博している映画『ミッドサマー』(2020年2月21日公開)です。北欧の夏至祭を舞台にした明るくて、お花がいっぱいで、ヴィジュアルはとてもきれいな映画なのですけど、そこで行われていることがエグすぎるという、ちょっと珍しいタイプのホラー映画です。では物語から。

【物語】

ダニー(フローレンス・ピュー)は、恋人のクリスチャン(ジャック・レイナー)とうまくいっていなくて悩んでいます。そんな中、心を病んだ妹が両親と無理心中をしてしまい、ダニーはショックにあまり泣き叫び、クリスチャンを頼ります。彼は友人のひとりのスウェーデン人ペレ(ヴィルヘルム・ブロングレン)の誘いで男友達と彼の故郷の夏至祭に行こうと計画していましたが、その旅にダニーも同行することに。

向かった先は、スウェーデンの人里離れた場所にあるホルガという場所。そこで暮らす共同体の人は彼らをとてもやさしく出迎えてくれます。しかし「いい場所」だと思っていたのは最初だけ。彼らはそこでおぞましい体験をすることになるのです。

【美しいヴィジュアルの中に混在する奇怪】

とにかく冒頭から、ヒロインの家族がいきなり無理心中するという不吉な出来事からスタート。まあ、事前に「怖い映画らしい」と聞いていたので、クリスチャンと出かけた北欧で何かが起こるのは想像していたので、かなりドキドキしながら観ていました。

舞台はとても風光明媚な場所で、花が咲き乱れ、若い女性たちはみんな美しくて優しい。一見、女子の大好きな北欧のかわいらしいヴィジュアルが展開していきそうに見えますが、だんだん、全員、同じような白い服を着ていて、同じような笑顔で、やたら親切なのがかえって薄気味悪く見えてきます。そして夏至祭の儀式で最初の恐怖をつきつけられるのです!

【ホルガの人たちのヤバい行いに驚愕!】

最初の儀式では、ダニーたちの目の前で老人が二人、崖から飛び降り自殺するのです! ひとりは即死ではなかったため、ホルガの人が肉体を叩き潰すという……。ダニーたちは「なんてこと!」と恐怖を感じますが、彼らは「これは私たちの伝統なの。亡くなった彼らにとって名誉なことなのです」と笑顔で語るのです。

私だったら、この時点でここから逃げ出す方法を考えますが、ダニーたちは、そのまま居座る……というか、逃げ出そうとしたほかの人物は速攻で命を奪われ、クリスチャンの友達もホルガの聖典の写真を撮ってしまい、殺されてしまうのです。

【クレイジーな世界に落ちていくダニーとクリスチャンの運命】

旅人の中でも、ダニーの彼氏クリスチャンの運命は悲惨です。彼はこの地で若い娘に惚れられるのですが、ホルガでは女性が好きな男性にアプローチする際、自分の下半身のヘアーを食べ物に混ぜて食べさせたり、経血をドリンクに混ぜて飲ませるという習慣があり、クリスチャンは何も知らずに食べたり飲んだりしちゃうんですよ~!

一方、ダニーは、ホルガの女王を決める儀式に参加させられます。女性陣はみんな倒れるまで踊らされ、最後まで踊っていた人が女王になれるのです。そのダンス大会で、なんとダニーは女王に! しかし、そのあと見てしまうんです。小屋の中で大勢の裸の中年女性に囲まれたクリスチャンとホルガの娘が裸で抱き合っているところを!

【『ミッドサマー』の怖さの正体】

『ミッドサマー』の恐怖は、人を不快な気持ちにさせたり、嫌悪させたりする気持ち悪さを伴うもの。ホルガの人がゲストに好意に見える行動はすべて、自分たちのカルトな儀式に従わせるためのものだったのです

彼らはダニーたちの飲み物や食べ物に薬物も混入させて、正常な考えを持てないようにコントロールしていた節もあります。明るい太陽の下、ニコニコと残酷なことをしてくるホルガの人たち。心の中で「ゲストの皆さんは私たちの大切な餌食なのです」と思っていたに違いありません。おそろしい……。

ダニーとクリスチャンがどうなるのかは映画を観ていただきたいのですが、女王になったダニーが花々に身を包まれているシーン、奇怪でドン引きしてしまいました……。人間の精神が壊されている様を見せられたような気になる『ミッドサマー』。ご興味あったらぜひ。

執筆:斎藤 香 (c)Pouch

ミッドサマー
(2020年2月21日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:アリ・アスター
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポールター、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ヴィルヘルム・ブロングレン、アーチ・マデクウィ、エローラ・トルキア、ビョルン・アンドレセン