2021年5月29日に最終回を迎えた、NHK土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について(通称:ここぼく)』。

前回第4話では「コロナとオリンピック」を彷彿とさせる攻めた描写が話題になりました。

謎の虫によって健康被害にさらされる人々と、利益のために事実を隠したい人々……。

これまで好感度ばかり気にして、こうした真実から目を背けていた真(松坂桃李さん)でしたが、最終話では意外な行動を見せたのです。

【最終話あらすじ】

謎の虫に刺された上に陽性反応が出てしまい、死の恐怖に恐れおののく真。

そんなとき、1度は接触を拒絶された木嶋みのり(鈴木杏さん)から着信が!

みのりは独自に虫さされの影響を調べており、「甲殻類アレルギーでなければ重症化しない可能性が高い」ことを突き止めます。

幸い、真には甲殻類アレルギーはありませんでしたが、被害者の中には該当する人がいるはず……。

みのりから勇気と愛情をもらった真は「怖いものなし」になり、いつも気にしていた好感度をかなぐり捨てて(!)、大学の総長(松重豊さん)に「被害者のためにも真実を明るみにしましょう!」と提案するのです。

【突きつけられる現実の厳しさ…】

これで状況は変わると信じていた真でしたが……現実的には、そううまくはいかず

真と総長が行動に出てからも、当然のように隠ぺいは繰り返され

市長→経済的損失を防ぐためにイベントを実施したいから、虫の正体を伏せるように命令
虫を流出した教授→「虫は全部処分した(※証拠)」とウソをつく

といった出来事が起こり、真は心が折れそうになってしまうんです。

従来のテレビドラマだったら「真実が明らかになった → めでたしめでたし」となるところで、シビアな展開を持ってくるあたり、さすが『ここぼく』……!

【問題には正しい名前をつけなくてはならない】

この状況をひっくり返したのは、真に勇気をくれたみのり

みのりが「真実を証明できる方法」を突き止めたおかげで、総長と真は記者会見を決行!

孔子の論語の教え「必ずや名を正さんか」=「問題には正しい名前をつけなくてはならない」

を信念とし、すべてを明るみにして謝罪したのです。

最終話で描かれたのは「物事は単純ではないが、希望はある」ということ。

組織自体が腐っているから、真実は隠されるし、失敗を叩けば叩くほど隠ぺいは増えてゆく。

そして失敗を認めるということは、責任を負うということ。事実、大学は損害賠償などで「お先真っ暗」な状態です。

けれど、隠ぺい体質のまま進んだら、もっと「真っ暗」になってしまう

だからすべてを認めて、問題解決に走る今の姿のほうが、まだ「希望」はある……。

私たちの現実とリンクする内容だからこそ、なおのこと「問題には正しい名前を付けなくてはならない」という言葉が響きます

【みのりの行動は無駄じゃなかった!】

総長は、第1話でみのりが勇気を持って不正を告発したときに、涙を流していました。

当時のみのりの行動が「種」となり、総長と真の心に植え付けられて、今回芽吹いたのかと思うと、あのときのみのりの行動は決して無駄ではなかったのだと目頭が熱くなります。

また、最終話には

「一見すると役に立たなそうな研究が、謎の虫から出る症状緩和につながる」

という描写が出てくるのですが、第3話に出てきた

「なにが役に立つかわからないこの時代、無駄と思える研究も必要。それなのに、お金儲けにつながらないものはやらない」

という問題と見事にリンク!

こうして振り返ってみると、アレもコレも全部伏線だったのか……とわかって、改めて脚本のすばらしさに震えました。

フィクションなのに、現実と限りなく近いストーリーが展開された『ここぼく』。

今季もっとも攻めていると話題の同作最終話は、NHKオンデマンドで見逃し配信中。6月2日23時40分からは、NHK総合で再放送が行われるので、ご覧になってみてはいかがでしょうか。

参照元:NHKTwitter @nhk_dramas
執筆:田端あんじ (c)Pouch