「サウナコラム」にまつわる記事

【連載】最終回 寄り添うサウナ【くもりのち雨 時々サウナ】

変わらない平凡な日常を愛していた。

いつもと同じ満員電車に揺られ、毎日同じ景色を見る。淡々と仕事を終わらせ、朝起きたらまた1日がはじまる。「何もない」のは何よりも良いことのはずで、少しだけ自分に刺激を与えたサウナの存在も、このところ「いつものサウナ」ができたことで、すっかり日常になじんでいた。

なのに、どうしてだろう。

年末特有のうわついた空気、そして定時を少し過ぎた金曜日のにぎやかなオフィスで、私の時間だけがここに留まって澱んでしまっているような、漠然とした違和感。

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【連載】第7回 生まれ変わって【くもりのち雨 時々サウナ】

「はい……はい……では、20時半に……」

電話を切って給湯室を出ると、通りがかりに電話の声が聞こえたのか、なにやらニヤケ顔の同僚がこちらを見ていた。デートですか、と尋ねる同僚に、違いますよ、とそっけなく答える。

事実、違うのだから仕方がない。給料日後の、ひそかな楽しみ。買い物も、少し贅沢な食事も良いけれど、今日は違う。

行きつけのサウナでアカスリを予約しているのだ。

時間を気にしながら、大急ぎで仕事を片付ける。

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【連載】第6回 母の手の【くもりのち雨 時々サウナ】

まるで懺悔室だな。

薄暗いサウナ室。一段目に膝をかかえて座り、ぼんやりとそんなことを考えていた。誰かが水を撒いたのか、濡れた床が少しの光に反射して光る。

数分おきにサウナストーンに自動で水がかかると、湿度を含んで重くなった熱が時間差で頭上から襲い掛かってくる。重たい熱は、決して私を包むことも、癒すこともなく、私の感覚と混ざりあわないまま、私を責めるように熱くする。

でも今日は、それくらいの厳しさが私にはちょうどよかった。

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【連載】第5回 あの人に会う前には【くもりのち雨 時々サウナ】

苦手なもの。

予期せぬ遭遇、予定の変更、急な誘い。

気にしすぎだ、と、よく言われる。確かにそうかもしれない。常に万全に準備をしていたい性格なのだ。でも、気を抜いたときに限って、急に人に会う予定が入ってしまう。人生は、うまくいかない。

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【連載】第4回 秘密基地【くもりのち雨 時々サウナ】

「え、そういう曲、聴くんですね」
言葉のうしろに、「(笑)」が透けて見えたような気がした。

帰り際、エレベーターホールでのことだった。
遭遇した同僚に、何聴いてるんですか、と無邪気にたずねられ、正直に答えるべきではなかったと少しだけ後悔した。
そうなんですよ、ちょっと古いですよねえ、と自虐するように笑う。

みぞおちのあたりが、きゅっと絞められるような感覚が苦しい。

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【連載】第3回 ふたりのサウナ【くもりのち雨 時々サウナ】

「飲みにいこうよ」のお誘いがいつもよりうれしくて、その日が楽しみだったのには理由がある。

用意するのはお財布、携帯、に加えて、いつものお風呂セット。目的地は、食事もできるスーパー銭湯だ。

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【連載】第2回 はじまりはサウナから【くもりのち雨 時々サウナ】

暦の上ではもうすっかり秋だというのに、夏のような寝苦しさで目が覚めてしまった。東向きの寝室の窓には朝日がよく入る。

冷え込んだ夜のうちに出した羽毛布団は無意識に蹴飛ばされて、ベッドの下でむなしく丸まっていた。

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【連載】第1回 ゼロになる場所【くもりのち雨 時々サウナ】

「おつかれさまです」を何度見送っただろう。今日も最後のひとりになってしまった。終わらない仕事をカバンに詰め込んで、消灯したオフィスをあとにする。

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【連載】第0回 そうだ、サウナいこう【くもりのち雨 時々サウナ】

「サウナ、いいっすよ」

そう語る、ひげ面で派手なTシャツのその上司が苦手だった。好きな服を着て、明るく充実した毎日を送り、趣味を語る姿がいつもまぶしかった。私みたいな凡人を、つまらない人間だと笑っているに違いない。

自分の無難な服装も、家に帰って寝るだけの毎日も、嫌いじゃなかった。ただ少し、慣れただけ。

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