2009年に発売されたマンガ「星守る犬」(著:村上たかし/双葉社)。出版業界も不況の煽りを受ける中、たちまちのうちに31万部突破のベストセラーとなり映画化が決定。いよいよ今年6月には西田敏行を主演とした映画が公開されます。
山中に放置された自動車から発見された中年男性と犬の遺体。男性の遺体が死後半年を経過しているのに、犬は1か月足らず……そんなシーンから物語は始まります。
恥ずかしながら記者は、このマンガが世間でそんなに評判だということも知らず、表紙一面に描かれた「ひまわり」のイラストが気に入って購入したのです。そのとき読んでみた感想ですが、なんとずるい作品なんだろうということでした。
まず、タイトルにもなっている犬の登場。そもそも悲惨なストーリーに、犬を出すのは反則ではないでしょうか。犬が不憫な境遇に直面しているだけで、全国の犬好きは泣けてしまうというものです。冒頭から悲しい結末を漂わせることで、その効果は倍増。読んでいる間読者は、純朴な犬の行く末を心配に思いながら、気が気ではない心境にさせられるのです。
さらに、犬の飼い主である主人公の中年男性。家族を失い、病に身体を蝕まれた「おとうさん」が犬と共に旅に出た道中、度重なる災難に遭遇するという状況設定。人を同情させるのに十分なシナリオです。
そのため、最初はただ泣かせるのが目的のストーリーかと思ったのですが、実は違ったのです。全部読み終えたあと、優しさと空虚さが混ざったような複雑な気持ちが膨らみ、自分も誰かに優しくしてあげたくなるような不思議な気分になります。
誰も訪れない旅の終点地「ひまわり畑」。満点の星空の下で、あとに残されたボロボロの車とふたつの亡骸が、読む人に強い印象を残します。
世の無常さ、虚無と敗北だけの悲惨な話というよりは、希望に溢れ、悲しいくらいに優しすぎる話でした。
終始、どんなに抵抗しても強制感涙させられるようなストーリーに半ばうんざりしていた捻くれ者の記者でさえ、最後には素直に涙をボトボトとこぼす始末。映画化されたキャストも、ほかには考えられないというくらいど真ん中の配役を起用しています。西田敏行の情に溢れた男の役は想像するに難くないし、犬は、なんと秋田犬です! これではまるで忠犬ハチ公を連想させるではないですか。まったく、欲張りな作品です。
(文:ricaco)
画像:Pouch