あれは、3月上旬の穏やかな日でした。
12月半ばから4月の半ばあたりまで限定発売しているという、ご予約必須な伝説のメニュー「いちごカレー」を今年こそは食べておきたいと思い、浅草にある『カフェ・ラティーノ』へはるばる出向いたときのことです。
「念願のいちごカレーが食べられる!」と柄にもなくウキウキモードで店内に入ると、いるはずのない生物(?)がデーンと店内に構えており、普段アクシデントに慣れている記者もさすがに面喰いました。
込み合う客席の合間にいたのは……1匹のカメ。しかもデカい。
今日はとんでもなく目が疲れているんだなぁ……そう思って、目をこすり、もう一度見直したのですが、やはりデカいカメはデカいカメのままでした。なぜまた、こんなところにいるのだろう? 人間というものは予想外のことが起きると、簡単に判断処理能力を失うようです。
まったく微動だにしないのでユニークなオブジェかとも思いましたが、狭い客席と客席の間にいて、あきらかに不自然極まりない。お客さまはみなさん、会計の際にそいつの上をまたいで通る始末です。あまりにも違和感たっぷりの光景に、さらにテンションが上がる記者。注文を終えるとすぐに観察をすることに決めました。
ジっと見つめること、十数分。おや……? 頭がかすかにもたげたではないですか。やはり、こやつは置物なんかではなかった。さらに、すぐ隣に座っていた美人OLのイスの下にノソノソと入り込み、またジッと動かなくなる始末。
美人の近くが良いなんて、カメのクセになんという計算高さ。記者の面喰った顔に気づいたのか、店の女将がやってきて「かわいいでしょ~、イチゴちゃんっていうのよ!」と説明してくれました。
イチゴちゃん……。カレーにもイチゴをいれるし、カメの名前もイチゴ。このお店は、どれだけイチゴが好きなんだろうか?
話しによると、この子は世界で3番目に大きい「ケヅメリクガメ」10才だということが判明しました。平均寿命は30年ほどで、中にはなんと100年生きるヒヅメリクガメもいるそうです。人間と同じくらい生きるということに驚きです。
良く見るとクリっとしたつぶらな瞳がプリティ! 記念に写真撮影しようとカメラを向けると何か危機を感じたらしく、彼(彼女?)はノッソリとした最速スピードで、ねぐらに戻っていきました。メルヘンの世界に入り込んだかのような奇妙な光景ですが、ふと、幼い頃に愛読していたミヒャエル・エンデの「モモ」の住人になったかのような気分が味わえて幸せです。
そうそう、念願の「いちごカレー」はというと、これまたすごい。甘みたっぷりのイチゴがカレーの中やライスの中にデロ~リと入っており、リクガメにまったく劣らない強烈なインパクトを発しています。
ゴロリとたくさん入ったイチゴからほとばしる、寛大なサービス精神には頭が下がります。記者の希望により辛口に味付けしたカレーと、いちごの爽やかな甘みが混ざり合い、口のなかで複雑なハーモニーを奏でます。テンションが上がった記者は、さらにアイスクリームとパンダ豆なるものをトッピング! アイスクリームが想像に反してビッグサイズだったのは計算外でしたが、ストイックなカレーがまろやかで、なかなかクセになりそうな風味です。
食べ終わる頃には、カレーを食べているのか、スイーツを食べているのか訳が分からなくなりましたが、久々に気分がトキメキました。ちなみに、店のオススメはドライカレー。予約必須のいちごカレーは採算度外視なので、できれば普通のカレーを頼んで欲しいとのことでした。
(取材、写真、文=める)
「カフェ・ラティーノ」
場所:東京浅草
期間限定 いちごカレー(950円/ネットより数日前に要予約)
URL:http://www.cafelatino.co.jp/index.html