大震災から1年が経過しようとしています。被災地はどのように復興への道をたどってきたのでしょうか。本日は、現在も3~4μSv/h(毎時マイクロシーベルト)という高い放射線量が検出されている、福島県飯舘村の動物にクローズアップします。
「村に残った犬」
のどかな山や畑に囲まれる飯舘村。原発事故以来、環境が激変した地域のひとつです。福島第1原発から北西に約40キロ離れていますが、風向きなどの影響で雑草や土壌などから高い濃度の放射性物質が検出されています。
住人たちは避難を余儀なくされ、震災前は約6千人が住んでいた村民も3月現在ではわずか10人弱が残るのみ。
人っ子ひとり人影が見られない村のなかで、アスファルトの道を勢い良く駆けてくる一匹の黒い犬を見つけました。村で生活を続けるご老人の愛犬コタロウです。
「触んなよ! 放射能まみれだがんな!」
背後から飼い主であるおじいさんの野太い声が飛んできました。
高い放射線量について熟知してるが、高齢で今更先祖代々続く家や山々を置いて村を離れることはできないと話します。
放し飼いの愛犬は、高線量エリアの草薮に入るなど内部被爆している可能性も高いはず。田舎では元々外に繋いで犬を飼うことが多いなか、放射線の分布が公表されるのも遅かった。それでも、犬だけ避難させれば良かったのではという意見もあるでしょう。はたして、飼い主の元から離れて暮らすことが愛犬にとって幸せなのかどうか考えさせられます。
「村を去った犬」
一方、所変わって原発から約50キロ離れた福島市。ここもまたエリアによっては1μSv/h近い放射線量が検出されてはいますが、原発付近に住んでいた村民たちが多く避難して来ています。
市内のとある日本家屋に住んでいるのは、飼い主の老夫婦と共に飯舘村から避難してきた犬のボン。放射能に触れないよう屋内で飼われています。
縁側から庭に出ようとするとご主人に厳しく怒られては、しょげてコタツにもぐり込む……そんな平穏な日々を送っています。
平穏な生活の背景に見られる老夫婦の苦渋の決断。村を離れる決断をしたときに夫婦がどんなに胸を痛めたか計り知れません。
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原発事故以前はおそらくさほど変わらない環境にあったであろう、2匹の村に残った犬と去った犬。今では一方は放射能にまみれながらも大地を自由に駆け回り、一方は屋内で守られながら厳しく行動を制限されている。あのとき以降、2匹の運命はまったく違うものになりました。
村も民も動物も生活環境もすべて手放さなくてはならない現実を前に下さねばならなかった、村民たちの苦渋の決断。当事者でない者が侃々諤々(かんかんがくがく)としても、彼らの選択を否定することはできないはず。
どうすることもできない現状に、あなたならどのような決断をするでしょうか。
(取材、写真、文=める、K)
▼飼い主の老夫婦と共に飯舘村から福島市に避難してきたボン
▼暖かい日差しが差し込む縁側から放射線量が高い庭に出ようとしたところ、
ご主人に叱咤されコタツのなかにもぐり込む様子がなんとも可愛らしい
▼終始反省気味のボンであったが、ご主人に良く懐いているのが伝わってきた。
せめて、このささやかな幸せがいつまでも続くようにと願わずにいられない
▼一方、今も飯舘村に残るご老人の愛犬コタロウ。
高線量エリアの草薮に入るなど内部被爆している可能性も高いのだが、
誰がこの状況を責められるだろうか
▼ほかの犬も放し飼いにされていた。
原発事故以来、一変した村の様子や生活環境にすっかり慣れた様子だ
▼人間がいない牧場に残る馬たち。
飯舘ならではの、のどかな光景だが3~4マイクロシーベルトと線量はかなり高い
▼人間を見るのは久しぶりなのか記者をしげしげと見つめる
▼牛も雪の合間からみえる草を食んでいるなど一見、普通の牧場と変わらない風景だ。
持ち主だろうか、誰かがエサをやりに来ている痕跡も伺える
▼人間が突然いなくなった環境に、動物たちは何を思うのか
▼子供たちは全員村外へ避難。
誰も登校しない校舎で、標語「欠席0の日」だけが空しく主張を続けている
▼降り積もった雪から生え伸びた雑草がチラホラ顔を出す。
グランドに子供たちの元気な声が再びこだますることはあるのだろうか