牛が気球に乗せられて、その下部には畑もついている。畑から収穫されている草を牛は食べ、人々は牛の隣で何か飲み物を飲んでいる。よく見ると牛の目には何やらグラスがかけられ、頭とお尻は透明の覆いが取り付けられている……。これ、何のイラストだと思いますか?
実はこのイラスト、オーストラリアで活躍中のアーティストのスティーヴン・ムシンさんが考えた未来のカフェのイラスト。「カウシップ」という作品です。何とも奇想天外なアイデアですが、なんとこのカフェは理論上、実現可能なんですって!
表参道のスパイラルで8月18日から8月31日まで行なわれている、スティーヴン・ムシン展。こういった一見クレイジー、だけどよく見て説明を聞くと「よく考えられている!」と驚かされる作品がいっぱい! ムシンさんと一緒に未来のまちを作るワークショップもあると聞いて、行ってきました。
■「カウシップ」の仕組み
冒頭のイラスト、奇想天外ですが次のような仕組みになっています。
牛はゲップとおならとして大量のメタンガスを排出します。そのメタンガスは気球を浮かせる動力になるほど大量なので、集めて気球の動力にします。また牛がかけているのはAR(拡張現実)搭載のメガネ。牛は牧草地の光景を眺めながら、のんびり草を食んでいるような気持ちになり、キャタピラの上を歩きます。ちょっと牛がかわいそうな気もしますが、現実の牛の飼育状況を考えたら、牛も今より幸せかも。
また牛の排泄物はタンクに集められてメタンガスなど作る原料になります。できたメタンガスも気球を飛ばす動力に。また排泄物から肥料も作られ、畑に使われます。この畑で作られた草は自動的に刈り取られて牛の飼料に。牛から出たミルクは、人間が風力発電で作った電気でミルクシェイクにしてカフェで飲みます。牛の作り出す動力でこのカフェは1日50キロほど移動。つまりこの気球は公共交通としても利用できるです! ムダがないでしょ?
■「コンポストザウルス」の仕組み
コンポストザウルスと名付けられた作品も奇想天外。2本の足がついたロボットはオフィス街を歩き、長いクレーンをビルの方に伸ばしているのですが、何の目的に使われると思いますか? 正解は未来のトイレ。
トイレに行きたくなった人はスマホでコンポストザウルスを呼び出します。コンポストザウルスはオフィスの窓に向かってクレーンを伸ばすので、呼び出した人はクレーンからロープを使ってコンポストザウルスの本体に滑り降ります。この時の人間の移動で作られるエネルギーもムダにはせず、発電に利用。これとソーラーパネルがコンポストザウルスの動力になります。
トイレについた人は、外を見ながらゆっくり用を足します。排泄物はコンポストザウルスの中央部分に集められ、肥料に。それを使ってコンポストザウルス内で植物を育てます。そして、コンポストザウルスは育った植物を地上に植えていきます。なるほど!
■奇抜なアイデアだけれど、環境問題を解決するアイデアに溢れた作品なのだ!
実はムシンさんはアーティスト兼環境デザイナー。「カウシップ」も「コンポストザウルス」も環境問題を解決するアイデアとして描かれています。
カウシップは牛が大量のメタンガスを排出して温室効果に影響を及ぼしたり、エサを作るための土地が大量に必要だったり、排泄物を大量に出したりするという問題を、おもしろいアイデアで解決しよういう試みです。
コンポストザウルスもムダになっているものを利用しようとする発想は同じ。現在、人間の排泄物は大量の水とエネルギーを使って都市の外へ運ばれていますが、排泄物は土壌を豊かにするのに役立ちます。使えるものをエネルギーと水を使って捨てているのと同じこと。それを解決しようというアイデアなのです。
■環境問題はおもしろく夢のあるアイデアでこそ解決できるのかも!
ムシンさんがこういった夢のあるおもしろい作品を描くのは、環境問題は、しかめっ面しいありきたりのアイデアだけでは問題が解決しないと考えているから。しかも、ただアイデアを出しているだけではありません。現在、ムシンさんはカウシップの本物を作ろうと現在計画中。会場には1/10の模型が展示されています。
■環境を考えた未来の暮らしのイメージをムシンさんと作ろう!
8月18日から21日までは、ムシンさんから作品についての説明を聞き、ムシンさんとともに未来の暮らしのイメージを作るワークショップも開催中。たくさん準備されたマグネットを壁にぺたぺた貼ることで、未来の町を作っていくのですが、これがとってもおもしろかった!
ムシンさんの奇想天外なアイデアをたくさん見た後だから、アイデアがわいてきやすいし、マグネットで貼るだけだからアイデアを形にしやすいのです。
偶然通りかかってワークショップに参加したこちらのフランス人男性は建築家。鳥に粉塵で汚染された空気を集めさせてご褒美のエサを与えるという仕組みを発表していました。
また森が接続されていて、その森できれいになった水を利用する家を考えた人や、屋上がサファリパークになっていて、動物の排泄物を動力として使う移動式の家を考えた人も。子供から大人まで気軽に楽しめるワークショップです。
人も動物も、今よりムダなく気持ちよく生きるためにできることはなんだろう。そういったことを笑いながら考えられる展示会でした。ぜひ一度行ってみてください! おみやげに、ムシンさんのイラストのついたマグネット1つもらえたよ!
【展示会情報】
スティーヴン・ムシン展
「Now, If, What, Then ‘Farming Tokyo――みんなとつくるまち’ 」
会期:2014 年8月18日(月)~8月31日(日)会期中無休 11:00~20:00
会場:スパイラルガーデン(スパイラル1F) 〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23
入場料:無料
お問い合せ:03-3498-1171(スパイラル代表)
ワークショップは8月18日(月)〜8月21日(木)まで各日2回開催。
詳しくはこちらをご覧ください:
http://www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_1160.html
画像提供:Stephen Mushin(http://stephenmushin.com/)
取材・撮影・執筆= FelixSayaka (c) Pouch