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『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』に元側近が怒る? 英国映画界がサッチャー元首相に冷たい理由【最新シネマ批評】

2012年3月16日


[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今週ピックアップするのは3月16日公開の『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』です。見事アカデミー主演女優賞を受賞、ハリウッドが尊敬してやまない大女優メリル・ストリープの貫録たっぷりの演技が堪能できる本作は、英国において11年間という長期政権を握った女性首相マーガレット・サッチャーの物語です。

マーガレットは雑貨商の娘として生まれ、市長を務めた父親の影響で政治家を志します。最初の選挙では敗れますが、デニス・サッチャーと出逢い結婚。「一生、皿洗いで終わるつもりはない!」という野心家の彼女をデニスは支え、マーガレットは首相になり、家族との時間を犠牲にして英国のために力を注ぎます。しかし、やがて失脚。晩年、認知症を患っていることが、娘の回顧録で世界中に知られることになるのです。

この映画に関して、元側近たちの間では11年も英国首相であった人物なのに、認知症で亡き夫を求める姿を存命中に描くことに「尊敬の念がない!」と批判的な声があったようです。

でも、これまでも映画界はサッチャーに冷たかった。ユアン・マクレガー主演の『ブラス!』ジェイミー・ベル主演『リトル・ダンサー』では、炭鉱の労働者階級を破壊したサッチャーの政策を痛烈に批判しています。音楽界でもエルビス・コステロやモリッシーなどが批判的な楽曲を提供しているそうで、サッチャー政権下で失業者が増えたことが大きな要因としてあるのでしょう。

それに比べれば、この映画はサッチャーの剛腕を描く一方、夫を愛し続けるひとりの女性の側面も美しく映し出しています。ご本人の側近の方たちは不満を口にしますが、まだやさしい方では……と思うのは、日本人だからでしょうか?

それにこの映画のいちばんの見どころはやはりメリル・ストリープの大熱演。しゃべり方、佇まい、すべてを入念にリサーチして105分サッチャーになりきった彼女は圧巻です。モノマネの域を超えた名演はストリープならでは! ある意味Theメリル・ストリープShowと言ってもいいくらいです。

ああ、それなのに、なんとアカデミー賞主演女優賞の受賞スピーチで、メリルは家族やスタッフに感謝の気持ちを熱く語ったにもかかわらず、サッチャー女史への感謝のコメントはひとこともなかったと、これをまた元側近を怒らせたとの噂が……。演技では隙のないメリルも、受賞で浮かれてしまったのでしょうか?

元側近たちの重箱の隅を突くようなチクチクの突っ込み厳しいこの映画。でもメリルの素晴らしさは突っ込みにも負けない輝きを放っていますから、一見の価値ありですよ。

(映画ライター=斎藤香

『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
監督:フィリダ・ロイド
出演: メリル・ストリープ、ジム・ブロードベントほか
配給:GAGA
(c)2011 Pathé Productions Limited , Channel Four Television Corporation and The British Film Institute.

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