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世界中で話題沸騰! 超絶リアルな「金魚アート」作家が語る海の底より深い金魚愛(前篇)

2012年4月15日

水の中で泳ぐ金魚。手に触れたらピチピチと跳ね、するりと逃げてしまうかのようなそのリアルな姿の正体は、なんと平面に描かれた絵!!

日本らしさが全面に押し出された古典的な魅力と同時に、どこにもない新しさが共存しているこちらの見事な金魚アートに、現在国内はもちろん世界中から注目が高まっています。

美しい金魚たちに命を吹き込んでいるのは、自身のアトリエを『金魚養画場』と称し、金魚という存在そのものを愛してやまない日本人アーティストの深堀隆介さん。深堀さんは、なぜそこまで金魚に魅せられてしまったのでしょうか。お話を伺ってみたところ、そこには深い金魚愛があったのです。

深堀さんが金魚をモチーフに製作活動を始めようと思ったきっかけは、自身のホームページやブログで紹介されている『金魚救い』。それは、汚れた水槽を泳ぐ1匹の金魚が深堀さんにもたらした、ある種の啓示だったのです。

――『金魚救い』12年前、夢をあきらめようと一番落ち込んだ日、ふと部屋の1匹の赤い金魚が気になった。7年もずっと粗末に飼っていた和金(名はキンピン♀)。フンまみれの水槽の蓋を開けたとき、背筋がブルブルっと震えた。赤く光る彼女の背中は怪しくて、とても美しかった。「なぜ今まで気がつかなかったのか、この子がきっと僕を救ってくれる」そう信じて、金魚を描き始めた。――(深堀さんのブログより)

金魚を飼い始めた背景に深堀さんは、「実はこの『金魚救い』のきっかけになった金魚は、子供の頃に金魚すくいのおじさんが廃業するというので何百匹も譲り受けたうちの、最後の生き残りなんです。僕はズボラだし、ほとんど手をかけることもなく……本当はいけないけれど水道水で飼育していたくらい。それでもあの人(深堀さんは金魚をあの人、と呼ぶ)は生き残った。強い生命力を感じました」と話す。

深堀さんはそこに、金魚の魅力を感じたわけですね。

●そう考えると幼い頃の金魚との出会いがなければ、今の深堀さんはいなかったかもしれないと思うと、ちょっと鳥肌が立ちますが……。

「はい、そうだと思います。それに金魚をいただいたことをきっかけに、金魚の見方が変わったんですよね。にしては、粗末に扱ってたけど(笑)。こんなに美しいものだったのか! と改めて思うようになりましたし、僕は金魚という存在にある種の空しさも感じるんです」

「金魚は元々、フナから改良された人工物なんです。それは僕にとって、すごくかわいそうな魚というイメージに繋がる。金魚が生まれながらに背負ってしまったそういう空しさと、そこから生まれる美しさ。それを表現したいというのが製作の根源にあります」

●金魚というモチーフを描くのではなく、その本質を描く、ということでしょうか。

「ええ。モチーフだととらえていたら、こんなに長く製作活動を続けていなかったと思います。僕は金魚を金魚とは思っていなくて、人間だと思っている。リアルな姿であっても、これは決して標本のようなものではなくて、金魚の持つ本質に僕の感情をそのまま落とし込んだ抽象画なんです」

●「本質を描く」ということは、美しい部分だけではなく汚い部分も描くということですよね。

「感情を落とし込んでいるので、作品は時に暗い色ばかりで埋め尽くされることもあるし、糞を描くことだってある。周りの人にすごく起こられるんだけど(笑)、僕にとってそれはすごく自然なことというか。必然なんです」

「僕は金魚の死体を描くこともあるけれど、それもまた金魚に対しての愛があるから描ける。自分の感情を落とし込むのももちろんですが、まずその母体となる金魚に愛情を注ぐ。愛情は、ただ可愛がることだけでは生まれないと僕は思っていて、赤ちゃんもそうですが、糞を掃除したりすることで生まれるものなんです。というか、それがないと愛じゃない気がする」

●それでは深堀さんの作品のモデルになっている金魚はすべて、自分で世話をして愛情を注いだ金魚ということなのですか?

「僕のポリシーとして、写真を見ないということと、模写はしないというのがあって。製作に入る時に頭に浮かぶのは、一緒に暮らしている金魚の姿だけなんです。だから愛情がある金魚しか描けないし、僕はそういう作品を作りたい」

作品は自分の感情を閉じ込めた抽象画であり、自分はアニメーションや模型といった実体のないものではない、金魚という存在そのものを作っているのだと語る、深堀さん。

「『金魚救い』の瞬間、狭くて汚い水槽の中が地球というか、自分の住んでる世界に見えちゃって。それでその中で一生懸命生きている孤独な金魚が自分に見えたんです」

お話を聞いていると、まるで深堀さんと金魚の境界線が消えて、互いに溶け込んで一体化してしまっているかのよう。「幼い頃水の中に住む魚に憧れた。もうひとつの世界への憧れだったのだと思う」という深堀さんの言葉からにじみ出ているひそかな願望は、もうすでに叶っているのではないか、とすら感じてしまいました。(後編に続く)

(取材、文=田端あんじ/ 写真・動画協力=深堀隆介氏)

参考:深堀隆介ホームページ(http://goldfishing.info/)、深堀隆介ブログ(http://goldfishing.at.webry.info/

■後編はこちらhttps://youpouch.com/2012/04/22/52145/

▼現在世界中で注目を集めている、樹脂を使った作品の数々



▼深堀さんは樹脂アーティストではありません。金魚を描き、そこに命を吹き込むアーティストなのです

▼制作過程の様子はこちらの動画をご覧あれ!
みるみるうちに息が吹き込まれていきいます

http://youtu.be/WJ8vrx1JnlM

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