【金魚アート作者の深堀隆介さんインタビュー】
前回は、「金魚アート」の作者・深堀隆介さんが抱く「深すぎる金魚愛」についてお伺いしました。今回は現在世界中で話題になっている、樹脂を使って描いた金魚アートについて詳しくお話を聞いちゃいます!
「僕は特別絵がうまいわけではないし、うまいやつなんてほかに山ほどいる。だから唯一無二の存在になろうと思って……」と話す深堀さん。
「それには誰もやっていないことを取り入れなければいけないと。そんなときに『金魚救い』に出会い、まず金魚を中心に描いている画家っていないなということに気がつきました。さらに、樹脂を使っているアーティストもほとんどいなかったんです」。
●なるほど。金魚との出会いは前回お伺いしたのでわかるのですが、樹脂という素材とはいつ出会ったのでしょう。急に思いつくことはなさそうな珍しい素材だと思うのですが。
「僕は大学のときにデザインを専攻していたことがきっかけで、リアルなゴリラとかを作るFRP(繊維強化プラスチック)工場で働いていたことがありまして。工場には今すごく有名になっちゃったアーティストとか、とにかくアーティスト志望の子が多かったんですけどね。そこで樹脂を扱っていたんです」
「樹脂は化学的なものなので、体に悪いものを吸い込むし手もすごく荒れます。だからその仕事を辞めてしばらくは、樹脂なんてみたくもなかった(笑)。でも金魚を生きているかのように描きたいと思った時に、僕が思い描くような作品を実現できるのは、樹脂なんだって気がついて。体には良くないし未だに好きになれない物質だけど、樹脂は表現法としてはベストなものなんですよ」
●樹脂って体に有害なものだったのですね! あの美しく可憐な質感からは想像もつきませんでした。
「そうなんです。しかも値段もすごく高いので、失敗すると損失が大きい。アーティストが手を出しにくい素材ではあります」
「最初に樹脂を作品へ使用したときは、透明のフィルムに金魚絵をコピーしたものを樹脂とともに型のなかに入れていました。それだけでもおもしろがってくれる人はいたけど、なにか物足りなかった。それで、樹脂に直接金魚の絵を描いてみたんです。絵の具が溶けないか心配だったけど、次の日見たらちゃんと固まっていたので、これはイケる! と感じました」
●ちょっと待ってください。1日置く、と今おっしゃいましたけど、樹脂って固まるのにどれだけ時間がかかるのですか?
「今僕が使っている樹脂は、乾くまでに2日かかります。一層入れて2日、また一層入れて、という地道な作業なので、出来上がるまでとても時間がかかりますが、そうすることで余分な気泡が抜けて、良い質感が生まれるんです」
「しかも僕は、筆を入れる時『今だ!』っていう感覚がないと描きたくないんですね。最近では、どうしても気分が乗らなくて3年くらい放っておいたものに、やっと筆を入れることができました。作品を完成させるには、感性が震えるような衝動が必要なんです」
うわぁ。気が遠くなるような作業を経て、あのような名作が生まれていたのですね。
●現在、作品の注文が殺到しているそうですね。そういった手法だと対応が難しそうですが実際のところは?
「僕は販売用の作品をメインに作っているわけではないので(笑)。作家として、個展に向けて作品も作らなければなりません。だから今買いたいと言われても、対応しきれない。ただ注文があまりに多いので、正直、人生の岐路に立たされているというかんじです(笑)」
実は私も欲しかったのですが(ちなみに小さな作品だと40000円ほど)……簡単には手が出せないのが残念! お小遣い頑張って貯めます……。
●ところで深堀さん、世界から注目されている今、これからどのような作品を作っていきたいとお考えですか?
「僕は自分の作品を見る人に、そこに宿る命を感じてほしいんです。学生の頃偶然入った奈良・興福寺の国宝館で見た仏像に、あのときの僕が感じたような感覚を。僕がみた阿修羅像はボロボロでほこりもかぶっているのに、息づかいまで聞こえてきそうな生命力があった。そのとき、ああ人間の根本に訴えてくるってこういうことだ、物の本質があるってこういうことだ、って思ったのが今でも心に強く残っているんです」
●「命」そして「死生観」を宿した、本質がある作品を目指している、と。
「はい。見た瞬間、動いた! と感じたり、金魚の水槽のニオイまで感じてほしいです。そしていつかは、日本人にしかわからないというのではなく、世界中の人の根っこにある部分に共通して訴えかけるような作品を作りたいと思っています」
深堀さん、貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました!
命を宿した深堀さんの作品は、一目見てすぐ深堀さんの作品だとわかる独特で唯一無二の作品です。ぜひ生で見たいというあなた、7月には池袋の西武で個展を開くそうなので、その時はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
(取材、文=田端あんじ/写真・動画協力=深堀隆介氏)
参考:深堀隆介ホームページ(http://goldfishing.info/)、深堀隆介ブログ(http://goldfishing.at.webry.info/)
■前編はこちら(https://youpouch.com/2012/04/15/52142/)
▼「真新しいものじゃなく歴史のあるものを選んでいます」金魚を入れる器にもこだわりがあるのです
▼深堀さんに命を吹き込まれた金魚たち
▼瞬く間に金魚がイキイキとしてくる不思議な制作過程ご覧あれ
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