[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。
今回ピックアップするのは、9.11のアメリカ同時多発テロ事件の首謀者と言われるビンラディン暗殺の裏側を描いた衝撃作『ゼロ・ダーク・サーティ』です。
『ハート・ロッカー』でアカデミー賞を受賞したキャスリン・ビグロー監督が再び着手したのは、やはり社会派映画。でも『ハート・ロッカー』が爆弾処理班の男にフォーカスを絞って描いたのに対し、この映画は、ビンラディン暗殺という世界的ニュースになった事件の裏側をえぐった作品です。「社会派映画? 難しそ~」と思うかもしれないけど、社会派+サスペンスといった感じでクライマックスの30分は、もう緊張感MAX! 記者はドキドキしすぎて心臓がどうにかなりそうでしたよ。
9.11のアメリカ同時多発テロ事件から、忽然と姿を消したビンラディン。2003年、CIAは冷血な情報分析官マヤ(ジェシカ・チャステイン)をパキスタンに送り込みます。ビンラディンに繋がりがありそうな人物を拷問にかけて、関係者の名前を吐き出させようとするCIAの荒業に最初こそ目を伏せるマヤ。でもサウジアラビアのテロのあと、マヤのはったりに騙された捕虜は、ビンラティンの関係者の名前をマヤに告げます。
ところが捕虜への虐待が問題視され、捜査は行き詰まっていきます。そんな中、大金を引換にビンラディンの情報を売るというアルカイダの幹部が出現しました。担当するのはマヤの友人のCIA分析官ジェシカ(ジェニファー・イーリー)。しかし、ジェシカは帰らぬ人になってしまいます。その後、マヤは何かに取りつかれたようにビンラディンの情報を得ようとし、彼の居場所をつきとめますが……。
ビンラディン暗殺は2011年なのに、もうその内幕を暴くような映画『ゼロ・ダーク・サーティ』が公開され、アメリカは揺れたそうです。映画批評家は絶賛し、映画賞レースを席巻!第85回アカデミー賞でも作品賞、脚本賞、主演女優賞などの候補にあがっていますが、この映画に全面協力したCIAによる国家秘密の漏えいが問題視されてしまったのです。まあ、それだけリアルだったということですね。
絶賛されている脚本は、マーク・ボールの地道な取材活動の賜物です。ボールは、ワシントンで関係者へのインタビューを数か月にわたり敢行。そのあとパキスタンなど中東の地を渡り歩いて、自力でコツコツと情報を集めたのです。正直、リスキーな内容だし、映画になるという確信はなかったでしょう。それでも事件を体験した多くの人々の声を集めて、脚本へと繋げていったのです。彼が集めた衝撃の事実が、映画化へと動かしていったのかもしれません。
問題の拷問シーンは、アメリカ公開時も賛否両論。でもビグロー監督は「人間としては目をつぶりたくなる光景だけど、映画監督として、出来事をあるがままに伝える責任があると思った」と語っています。確かに拷問シーンをぼやかしてしまったら、CIAがギリギリのところで闘っているという映画の核が見えなくなってしまいます。テロ組織との攻防もまさに戦争。やるかやられるかの闘いというのが、この映画を見ると本当によくわかります。
とわかっていても、拷問シーンやビンラディン暗殺のクライマックスは、生々しく力強いゆえに、見る者にダメージを与えます。マヤの信念、その強さと実行力はアメリカそのものなのかなと思いました。正直、怖い!
この映画の超緊張のサスペンスと壮絶なクライマックスを見た後は、「あれでよかったわけ?」「どうなのよ?」と、いろいろ語りたくなったり、調べたくなったり、考えたくなったりします。スカット爽快という映画じゃないけど、たまにはこのような硬派な社会派サスペンスも刺激的でよいですよ。
(映画ライター= 斎藤香)
『ゼロ・ダーク・サーティ』
2013年2月15日公開
製作・監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジェシカ・チャステイン、ジェイソン・クラーク、ジョエル・エドガートン、ジェニファー・イーリー、マーク・ストロング、カイル・チャンドラー、エドガー・ラミレス
ジェームズ・ガンドルフィーニ、クリス・プラット、フランク・グリロ、ハロルド・ペリノー、レダ・カテブ、ジェレミー・ストロング、スコット・アドキンス、マーク・デュプラス、シモン・アブカリアン、アリ・マルヤル、ヘンリー・ギャレット、ホマユン・エルシャディ、ジュリアン・ルイス・ジョーンズ
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