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鋭くも妖艶な世界観! 中国武術マスターも絶賛するカンフー映画『グランド・マスター』ウォン・カーウァイ監督に直撃インタビュー!【最新シネマ批評】

2013年5月31日

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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中からおススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回のピックアップは、5月31日公開の中国の巨匠ウォン・カーウァイ監督の新作『グランド・マスター』。この映画のプロモーションで来日したカーウァイ監督にインタビューができました! 17年かけて作り上げた力作について、裏話を色々と聞いてきましたよ。

カーウァイ監督が描くカンフー映画ということで超話題の『グランド・マスター』は、中国武術の流派を極めたマスターたちが、南北統一の使命を受け継ぐ後継者を巡って、闘いを繰り広げるドラマです。

詠春拳のイップ・マン(トニー・レオン)、八卦掌のマスターの娘で奥義六十四手を受け継ぐルオメイ(チャン・ツィイー)、八卦掌のマスターの後継者と言われながらも野心に溺れるマーサン(マックス・チャン)、そして八極拳のマスターのカミソリ(チャン・チェン)らが、カンフーを駆使して頂点を目指す……。

物語は、カンフーの達人たちの、武術を極めようとする信念と、その心を実現に向かわせる洗練されたカンフーの奥義を余すところなく見せてくれる映画です。

なんとこの映画は構想から17年! やっと完成したのです。きっかけは、もともとカーウァイ監督がブルース・リーの映画を作ろうと調べるうち、その師匠のイップ・マンに興味を抱いたことに始まります。イップ・マンが継承してきた中国武術の世界に、強く魅せられたのだそうです。

カーウァイ監督曰く、
「自分にとって武術の映画は初めてですが、この映画は自分の人生を変える作品になったと思います。しかし、今までのカンフー映画との違いをどう出すかが難題でした。同じカンフーでも、そのなかで違いを出したかったのです。それをCGもワイヤーアクションもない、生のアクションで表現しようとしたので大変でしたね」

役者たちは撮影に入る前に、なんと2~4年ほどカンフー・マスターについて修行をしていたというから驚きです。撮影にも膨大な時間を要することに。大人気スターのトニー・レオンやチャン・ツィイーのスケジュールをこれほどガッツリとキープするなんてそうそうできるもんじゃありません。

もうそれだけでビックリですが、なおかつトニーは2度骨折をしたり、ツィイーも体を痛めたりと、満身創痍(まんしんそうい)の撮影だった様子。あの美しい動きを体得するのは、並大抵のことじゃなかったわけですね。

「チャン・ツィイーの駅のアクションシーンはマイナス30度のなか、2カ月かけて撮影していました。またトニーの雨の中のアクションシーンも大変でした。観客は、“トニー・レオンにカンフーができるのか?” と思うかもしれない。そういう観客を説得しなければいけない重要なシーンだったからです」

しかし、こだわっただけあって『グランド・マスター』はこれまでのカンフー映画とは一線を画す映画になっています。何しろ美しいのですよ、カンフーが! まるで舞踏のような美しさと刃物のような鋭さがスクリーンを覆い尽くすのですよ。カーウァイ監督に “こんな美しいカンフー映画見たことありません!” と言ったら、

「でも、私は綺麗に撮影しようとはまったく思っていませんでしたよ。私は中国全土をまわり、数多くのカンフーのマスターたちに会い、話を聞き、カンフーも見せてもらいました。そのときわかったのです。カンフーはスタイルそのものが美しいのです。指先にいたるまですべての動きを突きつめていくと、美しくなるのです。カンフーはダンスじゃない、武術です。ほら、日本刀も鋭い刃を持った武器だけれど、美しいでしょう。中国武術もそれと同じなのです」と、監督。なるほど~。

また、『グランド・マスター』は、厳密にはカンフー映画というより中国武術を描いた映画だとも語っていました。
「私はこの映画で、中国武術の哲学や生き様を描きたかった。今、昔の中国武術は失われつつあり、だからこそ、今、中国武術の世界を掘り起し、皆さんに知ってほしかったし考えてほしかったのです」

監督の情熱と気合いが、リサーチ、準備、撮影に長い年月を要したのですね。ところで、監督が取材をしたマスターたちは、この映画をご覧になったのでしょうか? と聞いてみると

「マスターたちは高齢の方が多く、完成まで10年以上かかったせいで、すでに亡くなった方も多いのです。でももちろん見てくださった方もいて、“映画で武術の力を感じた初めての映画” だとおっしゃっていました。また中国武術の雑誌では、『少林寺』以来、最も優秀な武術映画だと評価されたのですよ」と、ちょっと得意げな表情のカーウァイ監督。

ちなみにカーウァイ監督の恋愛映画が好きなファンもご安心。チャン・ツィイー演じるルオメイは、トニー・レオン演じるイップ・マンに熱い気持ちを抱きます。でも闘うために恋を封印し、マスターとして信念を貫こうとするのです。そこはちょっと切なく、恋愛マスター(!?)のカーウァイ監督らしさを感じることができますよ。

(映画ライター、監督撮影=斎藤 香)

『グランド・マスター』
2013年5月31日公開
監督:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン、チャン・ツィイー、チャン・チェン、マックス・チャン、ワン・チンシアン、ソン・ヘギョ、チャオ・ベンシャン、シャオ・シェンヤンほか
(C)2013 Block 2 Pictures Inc. All rights Reserved.

▼予告編(動画) すてきすぎる…

▼ちなみにこちらは中国のTV番組で放送された練習風景

http://www.youtube.com/watch?NR=1&v=YwyTEApXcE4&feature=fvwp

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